少年期[911]見飽きることはない
「本当に楽しめた。良い戦いだったよ」
「あっ!? 何言ってんだ!!!」
ゼルートの上から目線な言葉に、相変わらず怒りっぽい態度は変わらない。
だが、数秒後にはその言葉が……口だけの内容ではないと、身を持って体験することになる。
青年の成長速度には驚嘆せざるを得ない。
刀の扱いだけではなく、その際の体の動きまで徐々に理想的な完成へと成長していた。
ただ……それらの技術を磨いても、どれだけ驚異的な速さで成長したとしても、二人の間には決して瞬時に超えられない身体能力による壁があった。
「く、ぞ……がぁ」
渾身の抜刀を放てた。
今までどんな攻撃を繰り出したか、全て覚えているわけがない。
それでも……これまでの中で、過去一番の攻撃を放つことが出来たのは間違いなかった。
感じていたゼルートとの壁も、その一刀なら切断できる。
実際に最後の最後に頭目が放った抜刀は、他のベテランや一流の戦闘者たちが見ても、見事という言葉を送る。
それは対戦しているゼルートも同じ感想だった。
だからこそ……もっと「こいつのレベルが、身体能力が自分に近ければ」と思わずにはいられない。
「生まれ変わりがあるなら、今度は善人としてその刃を振るってくれ」
最後の瞬間、ゼルートは頭目の抜刀を交わすために、反射的に疾風迅雷を使用した。
反射的に速さを強化しなければ不味かった。
ゼルートがそう感じるほど、頭目が最後に放った一振りは最高と言っても過言ではない斬撃。
「お疲れ様です、ゼルート様」
「あぁ、悪いな。俺ばっかり楽しんでしまって」
「いえ、仕方のない事です。私たちの欲の為にいきなり対戦相手が変われば、その海賊も本来の力を発揮できなかったかもしれません」
頭目はゼルートに対し、間違いなく怒りの感情を持っていた。
それでも振るう刃が鈍ることはなく、徐々に……それこそ刀の様に研ぎ澄まされていった。
しかし……もし、ゼルートが引き、ゲイルかラルに変わるようなことがあれば、別の怒りがこみ上げるのは間違いない。
その怒りは、力に変えられるような怒りではなく、戦闘の中では邪魔になる怒りでしかない。
「さて、掃除するか」
殺した海賊たちの遺体は全て燃やし尽くし、溜め込んでいたお宝は全て回収。
幸いにも、商会の方から回収を頼まれていた商品は、どれ一つ欠けていなかった。
そして目的の海賊を討伐し、回収の最優先物であった名刀、三日月の回収を終えたゼルートたちは、今まで来たルートとは別のルートを飛行。
やや回り道をしながら、他の海賊たちもついでに討伐していく。
「……綺麗だ」
海賊の拠点を見つけて到着するまでの間、ゼルートは全く飽きることなく三日月の刃に見惚れていた。
(獅子王も当然綺麗なんだが、また別の美しさがある……手に入れられないのが、本当に惜しいな)
ゼルートが国王から褒美として貰った獅子王は、鋭さよりも力強さを感じさせる名刀。
それに対し、商会の船から奪い、頭目が扱っていた三日月は、徹底した敵を斬ること機能性を研ぎ澄ました美しさを持つ。
(黒曜金貨を払ってでも……と進言したいところだけど、そんなことをすれば父さんに迷惑を掛けることになる。それに、そういうやり方は好みじゃない)
他者の者を手に入れる為に、金で解決しようとする。
それはゼルートが嫌う貴族、権力者のやり方だった。
名刀に見惚れはすれど、狂うことはなかったゼルート。
予定通り、帰りも海賊たちを潰しながら無事に帰還。
「海賊団を潰して、頼まれた商品を取り返してきました」
受付嬢に依頼達成を報告。
ギルドの客室に案内され、十数分後には商会の会長が飛んできた。
「……っ、本当にありがとうございます」
会長は机が割れるほどの勢いで頭を下げ、涙を流しながらゼルートたちに感謝の言葉を伝えた。
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