少年期[880]結局恐ろしいことに変わりはない

「もしかしたら、魔物じゃないのかもしれませんね」


「魔物じゃない……それは、どういうことだ」


「えっ、その……魔物じゃなくても、技術と魔力さえあれば、人も同じことが出来るじゃないですか」


基本的に禁忌とされている類の技術だが、人間も同じことが出来る。


「おいおい、ってことはどっかの馬鹿がアイスタイガーとスノードラゴンをゾンビ化させて、その辺に野放しにさせてたってことかよ」


「いや、本当かどうかは分かりませんよ!! 一つの可能性として、ってだけの話です」


その可能性だが、決してゼロとは言えない。


何故なら、過去にそういった事が出来る人間が、自身の欲望を叶えるために暴走したことがある。

しかも、一件や二件だけではなく、そういった暴走は歴史を遡れば決して少なくない。


「……案外、あり得そうだな」


「えっ!? マジですか、ゼルートさん!!」


「確定って訳じゃないけど、ここ七日間ぐらいでそれなりに探索したからな」


ゾンビ化させた主が、魔物だと想定して探し続けたが、一向にそういった魔物は見つからなかった。


「そんなことをやってるのが本当に人間なら、マジで勘弁して欲しいっすね」


歴史を遡れば、魔物……もしくは死人をゾンビ化させる様な人間は、大抵碌でもない事件を起こす。


そもそも使者を蘇らせるという行為が、色々とアウト。

宗教的な問題もあるが、最悪の場合……国家が混乱し、内部爆発する可能性がある。


「そうだな。重罪だから、牢屋にぶち込んだ方が良いんだろうけど……」


力ある犯罪者は、あの手この手で脱出し、再び欲望を……野望を叶えようとする。


どの牢屋も同じく脱獄される訳ではないが、過去に牢屋に捕らえられた犯罪者が死刑日の前に脱獄したという事件はある。


「けどよ、それならゼルートたちが先日までの探索で、それらしい場所を見つけててもおかしくないんじゃないか」


今回体験した模擬戦で、ゼルートに挑んだ者たちは汗だく状態。

環境的には汗が流れにくいが、そこまで全力を出さなければ、掠り傷さえ負わせられない壁を感じていた。


時には一対二で戦っていたゼルートは、全く汗をかいていなかった。

勿論それなりに動いていたので、体は暖まっている。

しかし、表情からは全く疲れを感じさせない。


それだけ自分たちとスタミナに差があるゼルートたちが、何日も探し回っているのに見つからない。

それはそれでおかしいという意見に、ゼルート本人も含めて納得せざるを得ない。


(まだこの辺り一帯、全てを探索したわけじゃないが、そういう魔物……もしくは人間がいるなら、どこに隠れてるんだって話だよな)


パッと思い付かず、頭を悩ませる。


「振り出しい戻る、か……でも、ゾンビ化させてた奴が、高位アンデットじゃなくて、人かもしれないってパターンを得られただけでも有難いか」


「人が高ランクの魔物を……でも、そうなるとやっぱりその人間だけで……人間たちだけで、高ランクの魔物を倒したって事になるよな」


「ゼルートさんたちならともかく、普通の戦闘職が容易に出来ることじゃないですよね」


人にしろ魔物にしろ、対象の生物が死体でなくてはならない。


アイスタイガーやスノードラゴンがそう簡単に他の生物に殺されることはない。


(何恐ろしいことを考えてる連中……いや、集団がいるってことか? ったく、戦争が終わったばかりなのに、今度は国内で問題が起こるのか……)


少々テンションが下がる問題ではあるが、だからといって放っては置けない。


「ちなみにですけど、ゼルートさんたちならばアイスドラゴンがゾンビ化して復活しても、倒せますか?」


「スノードラゴンの上位種だろ。そもそもスノードラゴンをラル一人で倒したから、そういった点は特に問題じゃないと思う」


戦闘に関しては問題無いと言い切った歳下冒険者に、その場にいる全員が尊敬の念を抱いた。

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