少年期[870]興味が尽きない手札
「仕方ないと言えば……仕方ないんだろうな」
サリハンの一件で、ゼルートは自分の考えを国王陛下に手紙で伝えた。
すると、王城でお茶会という名の話し合いをすることになった。
当然、今回はゼルートの身に起こった一件なので、いつも傍に居るアレナやルウナたちはいない。
(さすがに一人で潰しに行くようには止めろって言われるのか? いや、そもそも国を潰すような真似はしないでくれって言われるか)
ゼルートに嫌がらせ、復習をしようと考える者が多くとも、簡単に潰して良いわけではない。
国が潰されたとなれば、歴史に残る大問題となる。
「アドレイブ様、到着いたしました」
「分かりました」
馬車から降り、目の前には一人の騎士が立っていた。
「国王陛下が待つお部屋まで、私が案内さていただきます」
既にゼルートの存在を知らない者は王城におらず、たかが冒険者が国王陛下にお会いするなど……なんて考える者はいない。
寧ろ、騎士たちの中には戦争で一騎当千の活躍をしたゼルートに尊敬の念を持つ者たちがいた。
「国王陛下、アドレイブ様をお連れいたしました」
「うむ、入れてくれ」
中から声が聞こえ、騎士がドアを開け……ゼルートは相変わらず緊張感が消えないまま、中へと入った。
「先日ぶりで、国王陛下」
「そうだな。さて、そう緊張する必要はない。楽にしてくれ」
そう言われ、高級ソファーに腰を下ろすゼルート。
楽にしてくれと言われたゼルートだが、そう簡単に楽に出来ないのが国王陛下の優れた点。
そこそこ高齢にも関わらず、王族が……国王が持つ特有の迫力が一切衰えない。
「手紙を読んだ。狙って来た人物は、本当にサリハンだったのか?」
「はい。間違いなく、黒葬の二つ名を持つサリハンでした」
裏の組織がゼルートに情報を提供した通り、暗殺者の正体はトップクラスの実力を持つ実力者、サリハンだった。
「事前に情報を提供してくれた者がいたため、周囲を巻き込むことなく、個人で解決することが出来ました」
「そうか……流石、覇王戦鬼だな」
「こ、光栄です」
二つ名を呼びながら褒められ……超恥ずかしいが、頭を下げてそう言わなければならない。
「して、誰がゼルートに情報を伝えたのだ」
「……以前、ちょっとした事情で関わった組織が極秘に情報を手に入れ、疑われたくないという理由から、情報を提供してきました」
「ほぅ、なるほどなるほど」
ゼルートが言葉を濁したことに、国王陛下は特に追及はしなかった。
高ランクの冒険者になればなるほど、そういった者たちと大なり小なり、関りを持っていることは珍しくない。
「正直、ディスタール王国との戦闘で戦った者たちよりも、実力は上でした」
「それは真か」
「はい。最後に一騎打ちをした、ローレンス・ディスパディアよりも優れた実力を有していました」
「そうか……よく、周囲に被害を出さずに討伐出来たな」
「持っている手札は多いので」
敢えて答える必要はないと思い、どの様な方法を取ったのかは伝えない。
「ふふ。お主が隠している手札が、あとどれほどあるのか、興味が尽きぬな」
無理に答えろとは言わない。
教えろとも言うつもりはないが……無意識に口を開いてしまいそうになる迫力。
ゼルートは耐えられるが、一般人などは絶対に隠し切れない。
「そして、サリハンを雇ったのは、一人の騎士だったのだな」
「はい。使い捨てのマジックアイテムを使い、サリハンの記憶を引き抜きました」
本当は違うが、それっぽい内容で答えた。
これに関しては、国王陛下もゼルートの言葉を疑わなかった。
「……ディスパディア家の者が雇った、か」
「おそらく。付け加えるなら、他家の騎士も絡んでいるかもしれません」
一騎打ちローレンスを殺された後、彼を慕う二人の騎士が同時に斬りかかった。
そんな彼の人望を考えれば、ゼルートの抹殺を望むのが家族以外にもいる可能性は、やはり否定出来ない。
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