少年期[857]考える頭を身に付けた
「ゼルート、良い感じに授業が出来てたじゃない」
「そうか? 自分じゃ上手く出来てたかあんまり分かんないだよな」
ゼルートたちは授業を終えると、学生や教師たちが大量に集まる食堂に来ていた。
「四人もそう思わない?」
三人の後ろには、ゼルートの友人であるスレンたちがいた。
「えぇ、僕もそう思います」
「……スレンの言う通りだな。あんまり似合ってなかったけど、それっぽかった」
「似合ってなくて悪かったな」
まだ幼さが残っている為、確かにゼルートはあまり教師の様に思えないかもしれないが……現物証拠もあって、座学の授業もかなり盛り上がった。
「相変わらず良く食べるな」
「ゴーランだって似た様なもんだろ」
空いているスペースに席を取り、ゲイルたちも含めて食堂で頼んだ昼食を食べ始めた。
「いや、そうかもしれねぇけどよ」
ゼルートの方が若干細いから……と言いたいところだが、現在の体格を考えると、ゼルートと自分にはあまり大差ないと感じた。
「噂は度々聞いてたけど、本人から話を聞くのはやっぱり面白いわね。実際に体験したいとは思えないけど」
マーレルとしては、ゼルートが語った密度の濃い冒険者人生は、まさに心が躍る冒険譚。
しかし、自分たちがそんな無茶をすれば、一瞬で幕が閉じてしまうのは明白だった。
「悔しいけど、マーレルに同意だな」
「あら、珍しいじゃない。バカのくせに」
「うるせえ。俺だっていつかAランクの魔物だってぶっ飛ばしたいと思ってる。でも、現実が全く見えてない程、脳みそ腐ってないからな」
「……ふふ、成長したな。ゴーラン」
「その目は止めろ。お前は親か」
ゼルートの記憶に残っているゴーランは、非常に無茶をする猪突猛進ボーイという印象が強かった。
しかし、戦闘スタイルでは相変わらず押せ押せ要素が強いが、物事を冷静に考える頭を身に付けていた。
「すまんすまん……でも、四人なら相手のレベルと状況次第だろうけど、Bランクのモンスターは……もしかしたら狩れるかもな」
この言葉にスレンたち四人だけではなく、周囲で聞き耳を立てていた生徒たちも驚き、中には昼食を吹き出してしまう者もいた。
ただ、この言葉を聞いた教師たちだけはじっくりと考え始め……決して無理ではないという結論に至った。
「ぜ、ゼルート。僕たちも、あの頃と比べれば、強くなってると思うよ。でも、それはちょっと、褒め過ぎじゃないかな」
「落ち着けって。状況と相手のレベルによるって言っただろ。まぁ、それを加味して……勝率は二割から三割ってところか」
決して命の無事が確保されている勝率ではない。
それでも、既に二つ名を有している友人が褒めてくれるのは嬉しいが、それでも自分たちはまだまだという思いが強い。
「俺が相手の攻撃を防いで、リルとマーレルがユニゾンマジックをぶち込めれば、勝機はあるってところか」
「基本的にはその形かもな……にしても、どうしたんだよ。滅茶苦茶考えられるようになってるじゃん」
「……俺だって嫌でも成長するってことだ」
ゴーラン自身も、以前の自分なら……例え格上の魔物が相手でも、自分が止めを刺したいと強く願うと自覚していた。
ただ、学園に入学してから、自分はあまり自惚れて良い存在ではない。
その事実を心に刻んだ。
決してゴーランが入学当初は弱かった、なんてことはない。
平民出身でありながら、既にトップクラスの実力を持ち、上級生にも引けを取らない腕力を有していた。
それでも……色々とあり、過剰に自信を持つことはなくなった。
「そんな事言いながら、戦争には参加しようとしてたくせに」
「おまっ、そりゃそう思うだろ!!」
「ふふ、僕はゴーランに同意かな。学生の中でも、勇敢に参加した人たちはいた訳だし」
スレンの言う通り、学生の身で戦争に参加した者は確かにいたが……その者たちは貴族出身であり、スレンたちよりも更に経験を重ねている。
教師たちとしては、強くともまだまだこれからの生徒たちを参加させる訳にはいかなかった。
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