少年期[852] 全員に火を付けた?

「こちらが、臨時講師をしてくれる現役の冒険者たちだ」


「どうも、ゼルートです」


「パーティーメンバーのアレナです」


「同じくパーティーメンバーのルウナだ」


三人が軽く……本当に軽く自己紹介をしただけで、生徒たちのテンションは一気にマックスに達した。


(やっぱりスレンたちだよな)


友人である四人の顔を発見し、ゼルートは嬉し気な表情を浮かべた。


「もう知っているとは思うが、彼らが短い期間ではあるが……君たちの教師になってくれる」


先日の戦争で大活躍した現役の冒険者たちが、短期間とはいえ自分たちの教師になってくれる。

その事実を実感し、更に高揚感が高まる。


とはいえ、中にはゼルートという英雄を初めて目にし……その実力を疑う生徒もいた。

戦意や殺気を放っていないゼルートは当たり前と言えば悲しいが、強者らしい雰囲気がない。


身長は順調に伸びているが、体格はゴリマッチョではなく、精々細マッチョ。

顔も母に似て少々甘い部分があるので、本当にあのゼルートなのか……と、疑ってしまう生徒がいても仕方ない。


「それと、そちらがゼルートさんの従魔たちだ。学園に迷い込んだモンスターじゃないから、うっかり倒そうと思って攻撃したりするなよ。お前たちが殺されて終わりだからな」


イーサンが冗談交じりで伝えたつもりが、その言葉を聞いて生徒たちのテンションが一変し、何人もの生徒が肩を震わせた。


(イーサンさんは冗談で言ったつもりなんだろうけど、ビビってしまった生徒が結構多いな。まっ、ラルやゲイルをリアルで見れば当然か)


ラームはザ・スライムな見た目なので、例え強くとも初見で本能的にビビることはない。

しかし、ラルは大きさはいつも通り小さくしているとはいえ、ドラゴンはドラゴン。

ブレスの一つでも吐けば、一瞬で生徒たちを消せる強さを持つ。


そしてゲイルだが……体が大きく、風貌な中々……他者をビビらせる圧がある。


「よっぽど馬鹿なことをしない限り、ゲイルたちが手を出すことはないから安心してくれ」


三体のマスターであるゼルートがそう伝えたことで、何人かの生徒たちがホッと肩を撫でおろした。


「さて……それじゃ、早速訓練場に移ろうか」


当初の予定通り、生徒たちを連れて予約している訓練場に移動。


「それじゃあゼルートさん。どうしますか?」


「そうですね……予定意通り、そちらの四人を除いて全員と戦いましょう」


スレン、ゴーラン、リル、マーレルを除いた十六人を指名。


「良いっすね。なら、俺から」


一人の生徒が一歩前に出ようとしたが、それを止めるゼルート。


「あっ、一人だけじゃなくて残り十六人、全員対俺で戦うんだよ」


「……はっ?」


これはゼルートが今決定した暴走ではなく、慈善にイーサンと初っ端の授業ではこういった内容にしましょうと決めていた。


(こういう生徒もいるわけだし、最初に実力を示した方が良いよな)


戦意などの圧でその差を示すのはつまらないと考え、実戦形式で自分が生徒たちの臨時教師に務まるだけの実力があると示す。


「ふざけてるんすか?」


「いや、ふざけてないよ。というか、冷静に考えてみてくれ。実際に戦争に参加して無茶すれば、一対十六なんて状況は珍しくないだろ……多分」


ゼルートの場合は一対何十という状況が常に続く戦況だったが、対戦側の戦略やゼルートの言葉通り無茶をし過ぎれば、一対十何人という状況に追い込まれることはある


「そういう訳だから、軽く準備運動をしたら始めようか」


ゼルートの絶対に自分が勝つからという思いが滲み出る言動に対し、先程までゼルートに対して賞賛や憧れの感情などを持っていた生徒たちも、徐々に顔つきが変化していく。


クラスのトップメンバーはスレンたちだが、そもそもイーサンが担任を担当するクラスのメンバーたちは、学園のトップクラスが集まる。


そのクラスに在籍しているというのが、彼らなりのプライドであり、ゼルートの態度や言動はそのプライドに火をつける結果になった。

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