少年期[835]欲しい物は、自分の力で手に入れる

「ところでゼルートよ、一つ……聞いておきたい事がある」


「は、はい。なんでしょうか」


もう……この緊張した空間から抜け出せる。

そう思っていたゼルートの体は、再び強張った。


(き、聞いておきたいこと? もう、戦争の活躍に関する報酬は貰ったよな??)


確かにゼルートが活躍した分の報酬は、男爵という形で受け取った。


だが、ゼルートは最後の最後に……オルディア王国側としては、とても有難い活躍をしてくれた。

それはローレンス・ディスパディアを殺したことではなく、ディスタール王国側の総大将である、フルオン・ディスタールを捕虜として捉えたこと。


第三王子という立場もあり、ディスタール王国側としては、そちらで煮るなり焼くなりしてくれとは言えない。


そして、オルディア王国はフルオン・ディスタールを使い、ディスタール王国側に何かしらを要求することが出来る。


「お主のお陰で、フルオン・ディスタールという外交の手札が手に入った。しかし、その手札はゼルートの起点……力があってこそ、得られたもの」


ゼルートとはフルオン・ディスタールを肩に担ぐと、あっという間に自陣営に戻ってきた。


それだけが評価されたわけではなく、ゼルートがディスタール王国側が直ぐに正確な判断を下す前に、最終防衛ラインを突破し……決着を付けたという事実も含まれてる。


それらを全てひっくるめ、国王陛下はフルオン・ディスタールという交渉材料を手に入れられたのは、ゼルートのお陰だと思っている。


「故に……ゼルートよ、何を望む」


「…………」


この国王陛下からの言葉に、ゼルートは直ぐに返答できなかった。


国王陛下からの言葉に対し、直ぐに返答しない。

この対応に……部屋の中にいるお偉いさんたちは、ゼルートとに対して「さっさと答えろ、下郎が」なんて思いを抱くことはなかった。


手に入れた交渉材料は……国の第三王子。

価値は第一王子や第二王子と比べれば低いが、それでも他国との交渉材料ともなれば、破格も破格。


この件に関して、褒美をゼルートに与える……この国王の考えを否定する者も、この場にはいなかった。


(な、何を望めば良いんだ!?)


ゼルートは本気でパッと、これが良さげでは? と思える内容が浮かんでこなかった。


国王も唐突な内容を話したと自覚しているので、望みを急かすような真似はしない。


「……国王陛下。その件に関しましては、私は何も望みません」


「ふむ……良いのか?」


特報酬を断った。

普通なら考えられないことかもしれないが……ゼルートとしては、十年近く前に貰った超名刀……獅子王。

あれを貰っただけで、超お腹一杯。


ゼルートの実力を考えれば、獅子王を使わずともローレンス・ディスパディアに勝てた。

ただ、獅子王を使ったからこそ、あそこまであっさりと……瞬殺で勝負を終わらせることが出来た。


「私は貴族になろうとも、冒険者です。これからも、欲しい物は自分の力で手に入れます」


「そうか……分かった。お主のこれからの活躍、期待しているぞ」


「精進いたします」


ここでようやく国王陛下との面会が終わり、ゼルートは息苦しい空間から解放された。


「ふぅ~~~……超緊張した」


「同感ね」


「だな」


三人は部屋から出ると、一気に力が抜けた。


これから祝勝会が始まる会場に向かう途中、アレナはフルオン・ディスタールの件についてゼルートに質問した。


「それにしても、本当に何も望まなくて良かったの?」


「あの捕虜王子の件についてか?」


「そうよ。色々望めたと思うのだけど」


「確かによっぽど無茶な要求でなければ、何かしら手に入れられたとは思うけど……あの場で十分以上考えても、思い浮かばなかったと思うしな」


冒険者として、欲しい物は自分の力で手に入れる。

それは紛れもなく本心故に出た言葉だが、そういった思いもあり、ゼルートは捕虜の件に関しては何も望まなかった。

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