少年期[819]頼ってばかりはいられない
「使いたくなかったが、背に腹は代えられない……ということだろう」
「なんだ、それは」
Bランクの冒険者を相手に、これ以上戦い続ければ仲間の誰かが死ぬ。
もしくは全滅の可能性もあり得ると思い、やむを得ずクライレットはゼルートから貰った錬金獣を取り出した。
こちらの錬金獣は接近戦も行えるが、メインは中距離から遠距離の攻撃魔法。
無尽蔵のスタミナを持つ魔法剣士。
とはいっても、そこら辺の魔法剣士とは比べ物にならないほどの強さを持つ。
「あの男を、倒してくれないか」
「……」
主人であるクライレットの頼み通り、規格外魔法剣士は一気にBランク冒険者との距離を詰め、腰に帯刀している剣を振りぬいた。
「ッ!!!!????」
だが、そこは数多の修羅場を乗り越えてきたBランク。
本能が……直感が体を突き動かし、ギリギリで体が真っ二つになる斬撃を交わした。
(なんだあれは!? ゴーレムなのか!!??)
生きている……とは思えない。
しかし、見た目が普通のゴーレムと違って人に近い。
(ちっ! ここは逃げるのが賢、明……んだ、これ)
緊急事態という事で、目の前で見た事実を後方に伝えようと思い、Bランクの男は規格外魔法剣士から逃げようとした。
ただ……それを許す錬金獣ではない。
この戦い、Bランクの男が後ろに下がった時点で、勝負は着いていた。
「うむ……恐ろしいな」
目の前の光景を見て、クライレットはぽつりと呟いた。
規格外魔法剣士はBランク冒険者の背後からロックジャベリンを発動し、体に大きな風穴をつくった。
基本的に魔法とは自身の前の前から放つものであり、対象の側面や後方から放つのは……少なくとも努力だけでは困難を極める。
仮にセンス、才能があったとしても習得出来るかどうか分からない。
だが……ゼルートは創造のスキルでプログラミングというスキルを生み出し、その技術をあっさりと錬金獣に刻み込んだ。
「勝った……って、事で良いのか?」
「非常に不本意ではあるがな」
これはクライレットの本音だった。
ゼルートが自分を心配する気持ちは素直に嬉しい。
しかしクライレットはレイリアと同じく、今回の戦争中には使いたくないと思っていた。
「……クライレット、少し戦況を整えた方が良いと思う」
「そうだな……もう少し、力を借りよう」
クライレットは規格外魔剣士に指示を出し、錬金獣は周囲の敵兵や冒険者たちを瞬時に潰した。
「あれは……クライレットが弟から受け取ってたゴーレムか?」
「みたいだな。助かったのは嬉しいんだが、あれってゴーレムなのか?」
「あれがゴーレムか否かなんて、今はどうでも良いでしょ。クライレットが奥の手を使って敵を全滅させてくれたんだから、体制を立て直しましょう」
学生たちの方に面倒な敵の侵入を許してしまい、追おうにも更に戦力が追加されて護衛の冒険者たちはかなり押され気味だった。
そんな状況に規格外魔法剣士が次々に敵を殲滅してくれたお陰で、ようやく余裕を取り戻した。
「話は軽く聞いてたけどよ……その錬金獣? マジですげぇな」
「うんうん、本当に凄いよ!!」
「驚き……その一言に限るわね」
クライレットからどういった物なのか聞いていた三人だが、実際に働きぶりを見て……その強さに驚かずにはいられなかった。
「そうだな。確かに強い力を持っている……ただ、これに頼ってばかりでは、僕たちが成長出来ない」
「はは、そりゃ同感だな」
心の底からゼルートが造った錬金獣を凄いと思ったバルガスだが、それに頼って楽したいという気持ちは一ミリもなかった。
「その錬金獣に頼ってばかりじゃ、俺たちが成長出来ないぜ」
「バルガスにしては珍しく良いことを言うじゃん」
「そうね。バルガスにしては珍しい」
「おい、お前ら。そりゃいったいどういうことだ」
仲間たちが元気に話し合っている姿を見て、クライレットは今回の判断に限っては間違っていないと思い、無意識に笑みを浮かべながらも……まだ戦争を続いていると、三人に気を引き締めるように伝えた。
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