少年期[782]だって一番安全だから
「はぁ~~~~~~……疲れた」
ゼブリック殿下とのお話が終わり、殿下と騎士二人がテントから出ていった後、ゼルートは力なくソファーに崩れ落ちた。
「あら、そんなに緊張してたの? 結構普通に喋れてた気がしたけど」
「そりゃ王族が相手なんだ。緊張はしてても、なるべく普通にというか、慣れた感じで喋ろうと心がけてたんだよ。それなりに上手く喋れてたとは俺も思うけど……はぁ~~~~。なんで戦争で敵と戦う前からこんなに疲れないといけないんだよ」
作戦会議の最中に多くの人物からジロジロ見られたのも、精神的に疲れた部分はあった。
だが、それでも途中でアホ二人と堅物一人をぶっ飛ばしたことで、それなりにストレスは解消された。
しかし……ただでさえ、ゼルートにとってお偉いさんとの会話は疲れる。
自分が属する第二王子との会話ともなれば、尚更疲れるのだが……今回はその会話内容に関して、相当な疲れを感じていた。
「ふっふっふ。確かに疲れる内容の話だったかもしれないが、悪い話ではなかったのではないか?」
「そうじゃない。あのルミイル王女様と結婚できるかもしれないのよ」
「お前らな……俺がそういう話は苦手だって知ってるだろ」
一般的に考えて、一国の王女様との婚約話なんて……貴族や平民、騎士に冒険者問わず、嬉し過ぎる内容であるのに間違いはない。
ルミイルが最低最悪の悪女であり、容姿も王女という立場に相応しくないのであればまた話も変わってくるが、全くもってそんなことはなく、よっぽどのブス専でなければ喜んで受け入れる縁談。
「ふふ、そうだったわね。でも、ゼルートはなんだかんだで貴族の一員なのだし……ゼブリック殿下のおっしゃる通り、今回の戦争で活躍すれば爵位を貰う可能性は充分にあり得る」
「そうなれば、いかにゼルートが自分は相応しくなと言い張ろうとも、世間の評価は真逆になるだろうな」
真にアレナとルウナの言うことは正しく、ゼルートは反論のしようがなく、言葉に詰まる。
「うっ……はぁ~~~~。もう、ため息が止まらん」
溜息を吐けば幸せが逃げるというが、今のゼルートは幸せが逃げても良いから、ストレスから解放されたいという気持ちだった。
「ゼルートはルミイル様と面識があるのだし、割と悪くない人選だと思うのだけど……本人的にはそう思わないの?」
「いや、そりゃ本人的にルミイル様に相応しいとは……」
上手く言葉が出てこなくなり、今までの自分の功績を思い返すと……冷静に考えれば、やはりルミイルと婚約相手候補になるぐらいの、資格は持っていると思ってしまう。
「ど、どうなんだろうな。なんか、上手く答えられなくなってきた」
「ということは、少なからずゼルートにはルミイル様と結婚しても良いなって気持ちがあるということね」
「普通に考えて、ルミイル様との婚約が嫌って人はいないだろ。ただ、ゼブリック殿下に説明した通り、俺はまだこれから先何十年も冒険者として活動するつもりなんだぞ」
例え……仮に、本当にルミイルと婚約することになっても、その意思が変わることはない。
「他国に行って、別の大陸にも行きたいと考えてる。その間、奥さんと子供を放っておくとか……クソ過ぎるだろ」
確かにそういった対応をしてしまった場合、クソ過ぎる男になってしまう。
ただ、ゼルートは一つ大事なことを忘れている。
「ゼルート……ルミイル様にお願いして、一緒に付いてきてもらえば良いじゃない」
「ッ!!!???」
ゼルートは耐え切れず、今度こそ果実水を少々吹き出してしまった。
「げほ、げほっ! あ、アレナ……そんの無理に決まってるだろ!」
「何でよ。私は結構いけると思うのだけど……アレナはどう思う?」
「ふむ、そうだな……私も案外いけると思うな」
「なんでだよ!!!!」
二人の予想外過ぎる言葉に、思わず鋭いツッコミを入れるゼルート。
だが、次のアレナの言葉で何故二人がいけると思っているのか……あっさりと納得してしまった。
「だって、ゼルートの傍がなんだかんだで一番安全そうじゃない」
「それは……そう、かもな」
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