少年期[781]意思を貫き通す恐ろしさ

SIDE アドルフ


夕食を食べ終えてから少し時間が過ぎてから、アドルフは一度ゼルートと話をしようと思い、彼の元に向かっていた。


(ふふ……気持ちが昂ってしまうね)


昼間の模擬戦を視て、更にゼルートの実力を明確に感じ取った。

アドルフも同じようなことは出来る。


だが、それは剣技に限った話。

魔法で同じ事を出来るかと尋ねられれば……即答は出来ない。


「楽しそうですね、アドルフ様」


「楽しくならない訳がないだろ。君もそう思わないか」


「……私としては、少し恐ろしいと感じます」


「…………そうだね。その感覚も間違っていないと言えるだろう」


アドルフの護衛として同行する騎士としては、ゼルートという怪物は相手が誰であろうと自分の意志を貫き通そうとする……権力者からすれば天敵とも言える存在だった。


勿論、アドルフの護衛である騎士はゼルートのことを下賤な冒険者、なんて見下したりはしていない。

強さという一点に関しては、尊敬の念すら持つ。


ただ……誰が相手であろうと自分の考え、死を貫き通そうとする点に関しては、やはり危うい部分だと感じてしまう。


「でも、妹たちが気になっている人物でもあるし、やはり一度じっくり話してみたいね」


そんな妹を大切にする思いに関して、騎士は否定しようとは思わない。


だが、万が一ゼルートと自分の主君であるアドルフがぶつかったりした場合……主君を守り切れるのか。

そんな不安が騎士の心にあった。


そして二人がゼルートが寝場所にしているテントまで着くと、入り口の前に三体の従魔が座っていた。

その内の一体……従魔の中で人に近い体躯をしているゲイルが二人に気付いた。


「……我が主に何か御用か」


「あぁ、少しゼルート君とお話ししたいと思ってね。おっと、自己紹介をしてなかったね。俺はアドルフ・アゼレードだ。よろしく」


「アゼレード……セフィーレ殿の兄、ということか」


「その認識で合っているよ」


妹のことを覚えているとなれば、話は早い。

そう思っていたアドルフだが、今は部屋の中に入ることは叶わない。


「そうか……ここまで来てもらったのに申し訳ないが、現在ゼルート殿はとある方とお話をしている。時間的に、日を改めてもらえると有難い」


「そうか……因みに、誰がゼルート君と話しているのか教えてくれるかな」


「……ゼブリック殿下だ」


「「ッ!!??」」


ここまで来るのに変装していなかったので、少し迷ったがゲイルは訪問者の正体を隠すことなくアドルフに教えた。


「ゼブリック殿下が、今中にいるのか……」


「そうだ。先程も申したが、時間も時間。ゼルート殿と話したいのであれば、日を改めてもらえると有難い」


言葉には出していないが、日を改めないのであれば……と、言葉が続きそうな剣吞な雰囲気が漏れだした。


その雰囲気を察し、護衛の騎士は即座に剣の柄へ手を伸ばした。

だが、問題無いとアドルフが騎士の動きを手を伸ばして制した。


「そうだね。そうさせてもらうよ」


それだけ伝え、アドルフは自身のテントへと戻って行った。


「駄目じゃないか、敵対心を表す様な行動を取ったら」


「申し訳ありません。あちらの雰囲気に釣られ、剣に手が伸びてしまいました」


「いや、怒ってるわけではないんだよ。護衛としては、君の反応が正しい」


ゲイルから敵意は感じられなかった。


ただし、お前ら空気を読んで帰れよ……的な意思を二人は感じ取った。

そんな圧に対し、騎士は無意識の内に警戒態勢を取ろうとした。


「彼……確かゲイル、だったか。強いね」


「そう、ですね……恐ろしい程、強いかと」


実際に剣は合わせていない。

それでも騎士はゲイルから自分より確実に上だと解る圧を感じた。


そしてそれは……アドルフも同じだった。


(あのリザードマン……いったい、今までどんな人生を送ってきたんだい? もしかして、俺より長く生きてる個体? 他の二体もスタイルは違くとも、同等の戦力は持っていそうだ。そんな三体を従えるとは……増々中身が気になるね)


今日のところは諦め、ゲイルの言う通りまた後日、ゼルートのところに訪れると決めた。

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