少年期[776]うむ、黙っておこう

「おう」


ドアがノックされる音を聞き、ゼルートは入ってきても良いと返事を返す。


「ゲイルか。どうしたんだ?」


「ゼルート殿に客が来ています」


「俺に客? 父さんや母さんじゃなくてか」


「えぇ、ガレン殿やレミア殿ではありません」


こんな時間にやって来る客と言われれば、父親か母親しか浮かばない。


(セフィーレか? でも、ゲイルの表情が少し固い気がする。セフィーレは……いや、ゲイルは殆ど面識がなかったか。でも、俺とそれなりに仲が良い人物だってのは知ってる筈だよな)


いったいどんな人物が自分の元に訪れたのか。

ゼルートは先に訪れてきた人物の名を訊いた。


「ゲイル、いったい誰がここに来たんだ」


「第二王子のゼブリック・オルディアという人物です」


「なにッ!!??」


「?」


「う、嘘でしょ!!?」


ルウナだけはゼブリック・オルディアという人物の名に聞き覚えがなく、首を傾げているがゼルートとアレナは当然、その名を知っている。


(おいおいおい、総大将がいったい俺に何の用だよ!!!!)


言葉にこそ出さなかったが、心の中で盛大にツッコんだ。

第二王子がいったい自分に何の用があるのだと。


「……追い出しましょうか?」


「ば! それはさすがに止めろ!!」


ゼルートとはハッとなり、どんな理由があってゼブリック・オルディアが自分の元に訪れてきたのかは分からない。

だが、立場を考えれば直ぐにもてなさなければならない相手。

それだけは間違いなかった。


「俺が出る。ルウナ、間違っても無礼な態度を取るなよ!!」


いざとなれば実力で問題を解決出来る……かもしれない。

しかし、それでも基本的に無礼な態度を取ってはならない相手。


「分かった。喋らないでおく」


ルウナも元王族だが、現在の自分の立場は理解しているので、ゼブリック・オルディアがテントから出て行くまで口を閉じていようと決めた。


「すいません、お待たせしました」


扉を開けると、そこには昼間に直接見た第二王子……ゼブリック・オルディアの姿と騎士二人がいた。


「すまないね、こんな夜分遅くに来てしまって」


「いえいえ、そんなことありませんよ。ささ、どうぞ」


「失礼する…………これが君が保有するマジックテントか。凄いな」


クールな表情を崩さず、メガネがずり落ちることはない。

ただ、それでもゼルートのマジックテントの広さや置かれている家具の質に驚いていた。


「どうぞ。あっ、お酒とおつまみがありますけど、どうしますか?」


これから少し喋ってから寝ようと思っていたので、テーブルの上には既に酒とつまみが用意されている。


ちなみに酒はゼルートが創造のスキルで生み出したワイン。

そこそこ魔力を消費したが、味はその甲斐もあって格別。


「ふむ……そうだな。頂こうか」


「騎士のお二人もどうですか?」


ゼルートの提案に騎士二人は首を横に振り、自分は大丈夫だと伝えようとしたが……自分たちの役目を思い出し、「少しだけ」と言葉にしてアレナが用意した椅子に腰を下ろす。


(……覇王戦鬼以外にも、多くの二つ名候補を持つ鬼才の少年……家族を侮辱したという理由で、他家の令息を徹底的に潰そうとする者が殿下に毒を盛るとは思えないが……)


騎士二人は念の為、毒味と称してゼブリックよりも先にワインと唐揚げを口に入れた。


「「ッ!!!???」」


すると、二人はあまりの美味しさに震えた。


「ぜ、ゼルート殿。このワインはいったいどこで……」


「こ、こちらの料理も、いったいどんな肉を使ったのですか」


二人の様子を見て、ゼブリックはゼルートが出したワインとつまみに問題はないと判断し、食した。

そして普段から冷静沈着である二人がここまで驚く理由を理解出来た。


「……うむ、美味だ」


「ワインに関しては入手経路は言えませんが、こちらの唐揚げに関しては先日ダンジョンで討伐したキングヴェノムサーペントの肉を使いました」


「「「ッ!!!!????」」」


とんでもない名の魔物がゼルートの口から飛び出し、さすがのゼブリックも表情が少し崩れた。

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