少年期[775]上だけしか見えない
「ふぅ~~~~~。相変わらず良い湯だな」
「そうねぇ……本当に贅沢だと思うわ」
時間は既に夕方となり、ルウナとアレナは日頃の疲れをゆっくりとゼルートが即席で作った風呂で癒していた。
「それにしてもルウナ、今日はちょっと動きすぎだったんじゃないの? あまり動き過ぎると、戦争が始まった時に思う様に動けなくなるかもしれないのだから、少し抑えた方が良かったと思うのだけど」
「ん~~~……別にそんなに動いてはいないぞ。あまり強い者が多くなかったからな……言っては悪いが、そこまで実力が高くない者が多かった」
世間一般的に見れば、そこまでキッパリ弱いと断言するほど弱くはないのだが、既にAランクの冒険者と同等か……それ以上の実力を持つルウナにとっては、大した実力ではないという認識。
ただ、そんなルウナでもBランクの冒険者や、それと同等の実力を持つ騎士との模擬戦はそれなりに緊張感があり、充実した一戦だった感じていた。
「まぁ、向こうもこれから戦争を行うのだから、全力を出していなかった可能性はあると思うが……アレナほど満足は出来なかったな」
そう……ルウナに模擬戦のし過ぎじゃないかとツッコんだアレナのだったが、こっそりと現役Aランク冒険者のアルゼルガと模擬戦を行っていた。
対戦相手に集中していたルウナも、その光景は視界に移っていたので非常に羨ましいと思った。
「少しだけよ。ルウナみたいに何時間も戦い続けた訳じゃないのよ」
「だとしても、DランクやCランクの冒険者……Bランクの奴らよりも、満足感がある模擬戦を行えたのだろう。それは、やはり私からすれば羨ましい限りだ」
「あっそ……でも、安心しなさい。明日になれば、嫌でも強い人達と戦える……命懸けの場所でね」
侵略戦争ではないが、戦争である限り……両者とも明確な殺意を持って敵を殺しに行く。
「ふっふっふ……そうだな。分かってはいても、想像すると滾ってしまうな」
「ルウナは単純ねぇ」
「アレナだって、いざ戦場で戦い始めれば血が滾るだろ」
「どうかしらね」
答えを濁すアレナだが、戦争が始まれば……ルウナの言葉通りになると思っていた。
(今回の戦争で死ぬ気なんて毛頭ない。それを考えれば……滾るかどうかは置いといて、顔に殺意が明確に現れるでしょうね)
昼間にチラッと知り合いを見かけた。
今回の戦争で、友人と呼べる同業者が参加している可能性は高い。
アレナにもゼルートと同じく、親しい人を殺したくないという思いはある。
その想いを貫くには……明日、修羅となって敵を殺し続けるしかない。
体は暖かい湯で癒されているにも関わらず、アレナの頭は嫌にクールな状態だった。
「おう、二人とも上がったか」
「えぇ、本当にいつも思うけど、良い湯だったわ」
「そりゃ良かった。まぁ、覗き防止に壁を高くしなきゃいけないから、景色はあんまり良くないだろ」
「ま、まぁ……それはそうかもしれないわね」
上を見上げれば、確かに星々が輝いている。
だが、横を見ればゲスな事を考える男たちから二人を守るために、ゼルートが高い高い壁を設置している。
もし上の穴から二人の裸を除こうものなら、ゲイル達から激しい折檻を食らうことになる。
仮にそんなことをしようものなら、明後日には戦争が始まるなど関係無しに、体が碌に動かせなくなる程のダメージを食らってしまう。
「俺はまだ起きようと思ってるけど、二人はどうする?」
「ふむ……ゼルートが起きるなら、私も少し起きよう。ただ、少し食べ物が欲しいな」
「へいへい、軽く何か用意するよ。アレナはどうする?」
「そうね……それじゃ、ゼルートに少しだけリバーシの相手になってもらおうかしら」
「分かった。軽く何か作るからちょっと待ってくれ」
十分ほどで軽いつまみを作ったあと、二人の為にあまり度数は高くないが上等な酒を用意したところで、ゼルートのマジックテントに来客が来た。
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