少年期[768]卑怯だとしても
悪獣を一人で倒した冒険者である少年と、三人の若手騎士が模擬戦を行うという話は一気に広まり、既にゼルートの周りには大勢の騎士や兵士、冒険者たちが集まっていた。
(おいおい、案の定なんか面倒な奴に絡まれたみてぇだな。あんまりゼルートが怒ってるようには見えねぇから……どうやら絡んだ側の兄ちゃんたちは、ゼルートの両親や仲間を馬鹿にしたって訳じゃなさそうだな)
野次馬の中にはガンツもおり、ゼルートがうっかり殺ってしまわないか心配だったが、怒りのオーラが漏れていないことを確認してホッとしていた。
(……でもよ、ゼルートのことだからこの勝負で勝ったらあの三人から何か貰うつもりじゃねぇのか?)
今のところ、ゼルートの頭にはその考えはなかった。
ただ、ガンツの中でゼルートは相手から絡んできた場合、倒し終えた後は相手側から何かを奪う……というイメージが残っている。
(勝てばやっぱり良い感じの武器でも貰うつもりか? 確かに三人が身に着けてる武器は中々良さげだからな……まっ、ゼルートが身に着けてるあのミスリルの武器には負けるだろうけどな)
遠目からでも三人が身に着けている武器が、そこそこ質が高いということは経験則から分かる。
ゼルートほど余裕がないガンツからすれば、買った報酬として貰えるのであれば是非とも貰いたい。
(そんな事をしたら貴族の連中から恨みを買いそうだが……一応ゼルートも貴族の子供で、バルス様とも仲が良いってのを考えれば、そこまで恨まれないか?)
勝利の報酬として武器を奪うなどとは考えていないが、それでもゼルートが模擬戦に勝った報酬として武器を奪ったところで、真実を知っている者からすれば自業自得。
相手の力量を正確に見極める実力ないくせに、強者に絡んだ愚かさを恨め……と、言われてしまう。
細かい話の真実を知らずとも、これから行われるのは三対一の変則的な模擬戦で。
一般的に見れば……ゼルートが不利な状況ではある。
(はっはっは!!! まさか作戦会議をして筈なのにこんなことになってるなんてな……ゼルートの奴は、よっぽど面倒事に好かれてるみたいだな。まぁ、ゼルートからすれば厄介事じゃなく、勘違いしたバカを蹴散らすだけの作業なのかもしれねぇけどな。はっはっはっはっは!!!!!)
Aランク冒険者であり、ガレンの親友であるグレイスもゼルートの戦いを観に来ていた。
冒険者ギルドで行われる様な賭けはないが、もし仮に賭けが行われるのであればグレイスはゼルートに間違いなく全賭けしていた。
(それにしても、三対一の戦い、か…………こりゃあ~~、あれだな。ゼルートが昔引き起こした事件の再来ってところか? 三人の騎士達も少し考えれば、過去にボコボコにされた三人の令息と状況が似てるって気付くと思うんだが……ありゃ駄目だな。三人とも妙に自信に満ちた表情をしてやがる)
ゼルートに絡んだ傲慢な青年に、優男の様な顔をしているが明らかに裏がありそうな青年。
そして三人の中では一番まともに見える堅物っぽい青年。
三人の耳には当然、ゼルートが悪獣をソロで倒した……という話は耳に入っている。
だが、目の前の少年を目にしてその話が信じられるか否か……答えはノーだった。
あんな子供でSランクの魔物が倒せるなら、俺たちでも倒せるだろ!!
という、馬鹿丸出しの発言をしそうだが……そこはグッと堪えていた。
三人とも結果だけを考えればバカであることに間違いはない。
ただ……それでもこの自分たちが卑怯と思われるかもしれない、三対一の状況を受け入れるぐらいの危機感は持っていた。
Sランクの魔物を一人で倒すのはさすがにあり得ない。
どうせ従魔の力を借りたに決まっている。
ただそれでも、普通の冒険者ではない……ということは、否が応でも認めている。
故に、三人で確実に潰して……あわよくばセフィーレやミーユに自分の存在をアピールしようと思っていた。
しかし……三人がアピールしたいと思っているセフィーレとミーユは、三人がゼルートに何秒で……もしくは何分で倒されるかを話し合っており、バカたちがゼルートに勝つとは一ミリも思っていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます