少年期[767]ささっと終わらせよう
いよいよ作戦会議が始まった……が、これといってゼルートが何か発言することはない。
それは席に座っていない者たちも同じ。
ついでに、ゼルートの親という立場なので出席したガレンも特に話すことはなく会議は進んでいく。
(特に話を振られないのは有難いな。それにしても……まだ妬み? っぽい視線を向けてくる連中がいるな)
会議が始まれば、会話に参加しておらずとも会議の進行状況に集中して耳を傾ける者が殆ど。
だが、数名程が未だにゼルートに対して嫉妬が籠った視線を向けていた。
鬱陶しいなと思いながらも、まだ本格的に絡まれてはいないので動きはしない。
早く会議が終わらないかなと考えているところで、ようやくゼルートに話が振られた。
「開始直後の魔法砲撃に関してだが……ゼルート・ゲインルート。特に問題無く行えるか」
この問いかけは、ゼルートをの体調を心配した言葉……ではない。
侵略戦争ではないとはいえ、ここでミスをすれば自身の評判を下げることになり、父親であるゲインルート家の当主に迷惑を掛ける事になる。
止めておくなら今の内だぞ、というある意味優しさがある言葉。
しかし、ゼルートにとって魔法は得意分野の一つ。
誰かに邪魔をされない限りは絶対に失敗しない自信がある。
「はい、問題無く実行できます」
大将であるビリーズ・ディスタックの問いに怯むことなく答えたゼルート。
その様子に同じく開始直後に魔法砲撃を行う宮廷魔術師たちのリーダーからは、感心視線を向けられた。
宮廷魔術師のリーダーだけではなく、この場にいる多くの者たちはビリーズ・ディスタックのことを知っている。
故に……その厳しさも勿論知っており、クソみたいな厳しさを持つゴミ人間ではないが、それでも騎士団長として恐れる者が多いのは事実。
「そうか。それでは……何か質問でもあるのか」
最後に貴族の一人とはいえ、現在冒険者であるゼルートに「気負うことなく、自身の全力を出してくれ」と閉めようとした瞬間に、一人の男が手を上げて発言の許可を求めていた。
「失礼します。申し訳ありませんが、私はそこの男……いや、少年がとても宮廷魔術師の方達と共に大事な開幕の攻撃を行えるとは到底思えません」
そう答えた貴族の青年の言葉に…………言葉にこそ出していないが、同じ事を考えていた者はいた。
本当にガレン・ゲインルートの後ろに立っている子供が宮廷魔術師たちと並び、敵国に大ダメージを与えられる程の魔法攻撃を行えるのか否か。
(……ただの馬鹿だな、あの男は)
一人だけ代表として椅子に座っている宮廷魔術師は声に出さなかったが、ゼルートが自分たちと一緒に開幕直後の砲撃に参加することに心の中で異を唱えた男に毒を吐いた。
宮廷魔術師のリーダーである男は、ゼルートがどれだけ膨大な魔力を秘めていることに気付いているので、高ランクではない冒険者の子供が自分たちと一緒に魔法をぶっ放すことに拒否感はない。
リーダーの後ろに並ぶ男達の宮廷魔術師の中にはゼルートの魔力量の膨大さに気付いていない者もいたが、それでも自分たちのリーダーが否定的な意見を発していない為、この場では何も発言しなかった。
(やはりこういった者が現れたか……嫉妬する気持ちは解らなくもないが、場所を考えれば良いものを……)
(ゼルートに喧嘩を売るとは、随分元気な奴だな)
バルスは予想していた展開が現実となり、飽きれが少し表情に出ていた。
そして宮廷魔術師と同等かそれ以上の力はないと宣言された息子の父親であるガレンはキレることなく、息子に喧嘩を売る青年にある意味感心してた。
そしてゼルートとはというと……予想通り過ぎる展開だったので、早めにこの面倒な絡みを終わらせようと決断。
絡んできた貴族の青年に倣って手を上げて発言の許可を求め、ビリーズはそれを許可した。
「あんたは俺がそちらの宮廷魔術師の方たちと一緒に攻撃を行うのに文句があるみたいだな。なら、俺の実力をその身をもって味わってほしい。そうすれば、その意見も変わるだろ……それと、そっちの二人も俺と戦うか? そこの青年と同じ様な視線を向けているだろ」
実際に戦って、その身で確かめれば良い。
このもっともな案に文句を言いだした青年が何かを言う前に、大将であるビリーズ・ディスタックはその模擬戦を許可した。
そして作戦会議が終わると直ぐにテントの外へと出て、三対一の模擬戦が行われることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます