少年期[761]見知った五人
「ゼルート!!!」
「ん?」
突然自分の名前を呼ばれ、呼ばれた方向に顔を向けると……そこには見知った顔の五人がいた。
「久しぶりだな、ゼルート!!!」
「せ、セフィーレ!? なんで、ここに……って、当たり前といえば当たり前か」
ゼルートに声を掛けた人物は、約一年ほど前に護衛依頼で仲良くなった貴族の令嬢、セフィーレだった。
(セフィーレクラスの実力があれば、令嬢であっても戦争には参加するよな……すっかりこの可能性を忘れてた)
ゼルートにとって、セフィーレもまた戦争で死んでほしくないと強く願う一人の人物。
(てか……この前より、ちょっと身長伸びてないか? まだ成長期だから当然かもしれないが……くそ、俺だって直実に身長は伸びてるんだけどな)
昼間に動き回り、夜はしっかりと寝る。
それを繰り返してるゼルートの身長は確かに順調に伸び続けている。
しかしセフィーレも規則正しい生活を送っているので、まだまだ伸びる可能性は十分にある。
「やぁ、ゼルート君。俺たちと出会った以降噂は色々と聞いてるよ。おっと、今だと覇王戦鬼殿と呼んだ方が良いかな」
「うっ!! ソブルさんまでその二つ名候補で呼ばないでくださいよ」
「なんだい? 俺は中々良い二つ名だと思うよ」
「私もソブルの意見に同意だ。ダンジョンから溢れ出した魔物の大群との戦いを実際に見てはいないが、ゼルート殿は実にその二つ名らしい活躍をしたのだろ。私も見習いたいものだ」
「カネルさんまで……まぁ、確かにあの戦いでは結構暴れてましたけど」
ソブルは若干からかってはいるが、覇王戦鬼という二つ名はゼルートの強さに恥じないと思っている。
カネルもソブルと同じく、他の二つ名候補と比べても覇王戦鬼という、どう考えても少年冒険者に付けるのに相応しくないのだが……ゼルートにはピッタリだと確信している。
「お久しぶりです、ゼルートさん。えっとですね、おそらくですが今回の戦争の活躍ぶりで、ゼルートさんの二つ名が正式に決まると思われます。ですので……ゼルートさんがいったいの様にして戦うのか。その辺りが二つ名に関わってくるかと思います」
「そうなんですね……有難い情報ありがとうございます」
戦い方によって二つ名が正式に決まる。
そんな言葉を聞き、ゼルートは今回の戦争で、どのように戦うと決めた内容を思い返した。
(最初に流星群みたいな魔法を撃ちこんで、その後はミスリルデフォルロッドとフロストグレイブの二振りを使って敵をどんどん潰すつもりだけど……もしかして、また二つ名候補が増えるのか?)
確かに覇王戦鬼という二つ名をかっこ悪いとは思わない。
他の二つ名候補も悪くないと思う部分はあるが……いざ自分の二つ名が決定し、その二つ名で呼ばれると……とんでもない恥ずかしさが襲って来る。
「初めて会った時から普通の少年ではないと思っていたけど、本当に英雄と呼ばれる力を持っていたんだね」
「み、ミーユさん。からかわないでくださいよ」
「からかってなどいないよ。ゼルート君がダンジョンから溢れかえった魔物を……悪獣を倒していなければ、いくつもの街が消滅していたかもしれない。そんな凶悪な存在を倒した君は、まさに英雄だと渡しては思ってるよ」
「……そ、そうですか」
実際のところ、あの戦いではゼルートたちが参戦していなければ、多くの街が潰されていた可能性が高い。
そして魔物を束ねる最悪の存在である悪獣に関しては、仮に倒せたとしても高ランクの冒険者が何十人と犠牲になり、ようやく倒せた……かもしれないというレベル。
あの戦いにゼルートたちが参戦したことは、冒険者たちにとっても非常に有難い結果だったと言える。
(ミーユさん、あまり褒め過ぎないでくれ!!! いや、褒められるのは非常に嬉しいんだが……やっぱりそんな堂々と英雄なんて言われるのは恥ずかしいんだ!!!!)
なんて思いをハッキリ伝えられる訳がなく、そろそろ恥ずかしさで死にそうだと思ってると……ようやくゼルートは周囲の者たちから向けられている視線の変化に気付いた。
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