少年期[758]まだ全滅してはいない
紅いリザードマンが五人の人間を体に乗せて走って来る。
この光景は誰がどう見ても異常。
ゲイルが街の門前に近づくと、直ぐに兵士たちが集まってきた。
「この者たちは盗賊に捕まっていた者たちだ」
リザードマンが人の言葉を口にし、兵士たちは当然驚く。
だが、赤い体のリザードマン……加えて人の言葉を話す。
そして体に従魔の証を身に着けている。
これらの情報から、一人の兵士がゲイルの正体を見抜いた。
「もしかしたら……お前は、冒険者……ゼルートの従魔、で合っているか?」
「ほぅ、ゼルート殿の名を知っているのか。それなら話は早い。考えている通り、私はゼルート殿の従魔であるゲイルだ」
ゼルートの名は他あの兵士たちも知っており、慌てて武器を下ろす。
Dランクの冒険者が一人でSランクの魔物を倒した。
この話はもう随分と広がっており、兵士たちの耳にも入っていた。
そして……ゼルート本人の強さだけではなく、ゼルートが従える従魔も尋常ではない強さを持っている。
そんな話も同時に流れた。
故に、構えていた兵士たちは無礼な態度を取って殺されたくないと思い、一斉に態度を改めたのだ。
「こちらの女性と子供たちは盗賊団に捕まっていた」
その証拠を見せる為に、女性達や門に並んでいる者たちに見えない角度で兵士を一人呼び、アイテムバッグから盗賊団のリーダーである男の首を取り出した。
「しょ、少々お待ちください」
いきなり生首を取り出されたことには驚いたが、話の流れからゲイルが取り出した生首がいったい誰なのか察し、鑑定の効果が付与された道具を取りに戻った。
そして見事、ゲイルが狩った盗賊団には懸賞金が掛けられており、大金を受け取った。
「あの、ゲイルさん。本当にありがとうございました!!」
「「「「ありがとうございました!!!」」」」
「……あぁ」
もう何度も感謝の言葉は受け取ったが、心の底から言われた最後の言葉を……ゲイルは素直に受け取った。
(まさか懸賞金が掛けられていたとはな……確かに少しは強かったか?)
今回、盗賊団が溜め込んでいた金は女性たちがこれから生きていく為に、全て渡した。
しかし幸運にも盗賊団には懸賞金が掛けられており、思わぬ臨時収入が懐に入った。
「その……ゲイル殿は何故、一人で盗賊を倒していたのですか?」
「……盗賊たちに、戦争が行われる日時が漏れていた。故に、主であるゼルート殿から戦争が始まるまで盗賊を狩る許可を貰ったのだ」
「な、なんと! そうだったのですね」
従魔が主と一緒に行動していないのはおかしい。
だが、それにはしっかりと理由があった。
寧ろ兵士たちにとっては有難い活動だった。
本来であれば冒険者ギルドに報告する案件かもしれないが、状況的にここでゲイルを拘束する方が後々問題になるかもしれない。
そう思った兵士は一応ギルドに報告こそすれど、ゲイルにギルドが判断を下すまで拘束はしないと決めた。
「ご苦労様です!!!!!」
「「「「「「ご苦労様です!!!!」」」」」」
兵士たちのリーダーが敬礼しながら労いの言葉を述べると、残りの兵士たちも同じ行動をとった。
「あ、あぁ……まだ、周辺の盗賊団が全て狩れた訳ではない。引き続き警戒することを勧める」
兵士たちの敬礼に驚きながらも忠告の言葉を残し、ゲイルは仲間と護衛を交代するために全速力で駆け出した。
「も、もう見えなくなりましたね」
「そうだな……とんでもない速さだ」
BランクやAランクの魔物であれば、一人で倒してしまう。
そんな話を脚力だけで信じさせてしまう。
他の者に目の前で起こった話をしても信じられないかもしれないが、その光景をしっかりと視ていた兵士たちだけは信じられた。
そして……思わず今回の戦争は、自分たちの国が勝利すると確信してしまった。
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