少年期[757]少しの間だけ我慢
(……このペースでいくと、やはり一番近い街か村に辿り着くまでかなり時間が掛かるな)
女性たちのペースに合わせて山を下りていくが、三人の女性は冒険者などではないので、山一つ降りるのにそれなりの時間が掛かってしまう。
(だが、このまま順調に降りて行けば日が暮れる前に降りることは出来るだろう)
道まで降りることが出来れば、後は少し無理矢理抱えてダッシュ。
そうすれば、完全に日が沈むまでには余裕で村か街に辿り着くことが出来る。
山を下っている間、ゲイルは女性たちの不安を紛らわせるために、ずっと自身が体験した戦いや冒険。
仲間の凄さなどについて語り続けた。
「ふん!!」
ただ、山を下りる最中では女性たちが大きな声を上げずとも、魔物たちが襲い掛かって来る。
危機感知能力が高い個体や、賢い魔物はゲイルの強さに勘付いて逆に逃げるという選択肢を取るが、考える頭がない魔物を遠慮なしに己の武器を振りかざす。
しかしゲイルがそんな考える頭を持たない低ランクの魔物に後れを取る訳もなく、ダッシュボアを倒した時と同じように風の刃だけで瞬殺。
(……遭遇する魔物を全部風の刃? だけで倒すゲイルさんと同じぐらいの力を持つ従魔を他にも三体従えてるって……本当に凄いというか、ちょっとおかしいというか……とんでもない人なのね、ゼルートさんって)
全く戦いの経験がない女性たちでは、きっとゼルートと出会っても本当にSランクの怪物を一人で倒せる実力があるのか、なんて難しいことは分からない。
それでも事実として……ゲイルたちの様な魔物の中でもずば抜けて恐ろしい奴らを四体も従える人間……少年は存在する。
「ようやく道に辿り着いたな」
登ったり降りたりするのも一苦労な山からやっと抜ける出し、一応道となっている場所まで辿り着いた。
「少し降りてくれ」
少年と少女を腕から下ろし、身体強化のスキルを発動しながら大ジャンプ。
ゲイルはジャンプの勢いが止まりそうなタイミングでぐるっと周囲を見渡し、運良くそれなりに大きな街をは発見。
(そういえば、あちら側に街があったな、すっかり忘れていた)
盗賊を探して始末することだけを目標として動いていたので、通ってきた道に近くに街があるという記憶がすっぽり抜けていた。
「こっちの方向にある街へ向かう。さぁ、乗ってくれ」
「「「え?」」」
少年と少女は直ぐにゲイルの腕へと乗るが、女性三人はどうすれば良いのか直ぐには理解出来ず、固まってしまった。
「どうした? 早く乗ってくれ。そこまで遠くはないが、このまま歩けばそれなりに時間が掛かってしまう」
女性と子供たちを無事に街まで送るのも大切なことだが、現在ゲイルにとって一番重要なことはゼルートたちの護衛。
ぶっちゃけた話、ゼルートたちにそれはほぼほぼ意味がないのは知っているが、もう届ける街までのルートは分かっているので、さっさと届けて護衛を行っている仲間と交代。
次の目的に急いでいるというのが目から感じ取ることができ、女性たちは恐る恐るゲイルの右腕に乗る。
これでゲイルの両腕には四人が乗っている。
「肩車で構わないか」
「えっ!? え、えっと……はい」
恥ずかしいという思いがあったが、直ぐにそんなことを言ってる状況ではないと思い、素直にゲイルの言葉に従った。
結果、両腕に二人ずつ抱え、最後の一人を肩車で背負う形となり……決してふざけてはいないのだが、ややおかしい見た目となった。
「振り落とされないように頭を掴んでいた方が良い」
「わ、分かりました」
腕に乗る四人も少々怖いが、肩車で乗っている女性は更に恐怖を感じ、ガシっと頭を掴んだ。
「怖ければ目を瞑っているんだ。着いたときに声を掛ける」
その言葉を最後に、ゲイルは街へ向かってそれなりの速度で走り出した。
「「「「「~~~~~~~~~~ッ!!!」」」」」
五人と眼を瞑っているので、移り変わる景色などは分からない。
ただ、早く走ることで受ける風の強さが並ではなく、嫌でもとんでもない速さで走っていることが解る。
しかしそれを察したゲイルは風の魔力を上手く使い、五人に風が当たらない様に調整。
スキルレベルは大して高くないが、見た目に似合わない器用さをもってすれば、それぐらいの芸当は朝飯前。
そして山を下りてから最寄りの街に着くまでハプニングが起こることはなく、無事に五人を街に送るというミッションは達成した。
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