少年期[755]首だけ持って行く
「……もう動けるか?」
「は、はい!! その、本当に有難うございます!!」
「「「「有難うございます!!!」」」」
「もう礼はたくさん貰った。十分だ」
腹が膨れ、女性や子供たちはある程度元気を取り戻した。
(さて、ここから近くの街まで動くわけだが……ふぅ~~。こんな時、ラームが羨ましいと思ってしまうな)
ラームは自身の体を自由自在に変形できるので、五人を抱きかかえながらでも山を下りて街まで余裕で運ぶことが出来る。
(無理に抱えて運ぶことは出来るかもしれないが……木々が生い茂る場所では危ないな)
一先ず歩いて山を下りると決めた。
「二人は私の腕に来るんだ」
子供二人を軽々と抱え、アジトから出て山を降り始める。
幸いにも盗賊団のアジトには服や靴もあったので、女性たちが山を下りるのに支障はない。
(ここから何日掛かる……途中でゼルート殿に、一報伝えておいた方が良いかもしれないな)
そんなことを考えていると、ゲイルは重要な事を思い出して子供たちを地面に下ろした。
「すまない、アジトに用事を思い出した。少しだけ待っていてほしい」
そう伝えるとゲイルは雷の結界を張り、ダッシュで盗賊たちの死体を埋めた場所へと向かい、盗賊たちのリーダーの死体を掘り起こす。
「こいつの首だけは持っておかないとな」
盗賊団という恐怖の存在を消したという証拠として、死体の首は非常に役立つ。
「異常はなかったか」
「はい、大丈夫です」
一分と掛からずゲイルは女性たちの元に戻り、その間に魔物が近寄ってくることなく女性たちは皆無事だった。
それからゲイルは女性たちのペースに合わせて着々と山を降りていく。
そんな中、盗賊に囚われていた女性の一人がゲイルに気になっていたことを尋ねた。
「あの……ゲイルさんは、誰かの従魔なのですか?」
「あぁ、そうだ」
ゲイルは体に冒険者の従魔だと証明する首飾りを身に着けている。
一度でも従魔の首飾りを見たことがある者であれば、その点に気が付いてもおかしくない。
「それなら、その主? の人はどこにいるんですか」
「私の主は現在、隣国との戦争に参加するためにバレアール平原へと向かっている」
「ッ!? そ、そうだったんですね」
女性たちの耳にも、そろそろ隣国との戦争が始まるという話は耳に入った。
「あれ? それなら、何故ゲイルさんはここにいるんですか? その……主である冒険者の方の傍にいなくて大丈夫なのですか?」
ゲイルが自分たちを捕らえた盗賊団を潰してくれなければ、自分たちは今も盗賊たちの慰み者になっていたかもしれない。
それを考えれば今、理由は分からないがゲイルが自由に動き、盗賊団を潰してくれたのは非常に有難い。
ただ、主である冒険者が隣国との戦争に参加するのであれば、何故傍にいないのか……やはり気になってしまう。
「問題はないな。主の従魔は私だけではない。まぁ……そもそも主は他の冒険者と比べて、圧倒的に強い」
「そ、そうなんですね」
盗賊団を一人で潰したゲイルが圧倒的に強いと宣言し、五人は勝手に頭の中でゲイルの主人がどういった冒険者なのか想像する。
「あ、あの……ゲイルさんの主さんはどんなお名前なんですか」
腕に抱えられた子供二人の内、女の子の方がゲイルの主の名について尋ねた。
この問いに対し、ゲイルは隠す必要はないと判断し、あっさりと答えた。
「私の主はゼルート殿だ……そうだな、悪獣というSランクの魔物を一人で倒した冒険者、といえば分かるか」
「「「…………えぇ~~~~~~~~~ッ!!!!????」」」
「声がデカい」
女性三人が予想以上の声で驚き、ゲイルは魔物が声に気付いて寄って来るのではないかと少し焦る。
案の定、一体の魔物が現れた。
「ダッシュボアか」
突進しによる攻撃が得意なボア系の魔物、ダッシュボア。
ランクはDなので、ゲイルとしては片手間で相手を出来る魔物。
ダッシュボアが突進してぶつかる前に風の刃を放ち、体の横からスパッと切断。
ゲイルは子供たちにグロい中身が見えてしまう前に回収し、女性たちになるべく大声を出さないように言い聞かせた。
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