少年期[747]戦った人であれば……

ゼルートたちが模擬戦を行っていることを知った兵士や騎士たちと合流し、新しい武器を慣らすために全員が模擬戦を開始。


勿論、もう直ぐ戦争が始まるので大きな怪我をしてはならないということもあり、全力で行わない。

しかし可能な限り、全力で体を動かし続けた結果………夕飯前には殆どの者たちが地面に大の字で転がることになった。


「はぁ、はぁ、はぁ。ゼルート様たちは、まだまだ余裕そう、ですね」


「日頃から動き回ってるんで、体力には自信ありますよ」


「は、はは。流石、ですね」


ゼルートに声を掛けた騎士はちょくちょくゼルートが行う模擬戦を観ていたが、自慢出来る点はどう考えてもスタミナだけではなかった。


(あれだけ動けてまだ十三歳、なんだよな………騎士になった時は結構浮かれたけど、ガレン様に仕えるようになって上には上がいると知り、また思い知らされることになったな)


そこそこ若い騎士の実力は決して低くない。

寧ろ、ゼルートが今までであってきた者たちの仲では上位に入る。


(それに、アレナさんやルウナさんたちも本当に強い……まだまだ経験が足りないということかな)


騎士たちはアレナたちにも模擬戦を申し込み、見事に全員負けてしまった。

ただ、そこはガレンに仕える者たちであり、才能やセンスの差だのグチグチ言い訳することなく、しっかり上を向いている。


「ゼルート様が今まで戦ってきた人たちの中で、一番強かった人は、誰でしょうか」


目の前で圧倒的な強さを観せてくれた主人の息子であるゼルートが、強敵と認めた人物。

いったいどんな人間なのか、声を掛けてきた騎士以外の者たちも気になる話題だった。


「一番強かった人、か……」


質問の内容が一番強かったモンスターであれば、ゼルートは即座に悪獣と答える。

それほどまでに強烈な印象がゼルートの中に残っている。


だが、一番強かった人と尋ねられると……直ぐには出てこない。


十秒ほど過去の記憶を掘り起こした結果……少し前に手合わせをした人物が出てきた。


「俺が今まで戦ったことのある人物ってなると、銀獅子の皇というクランに所属するAランク冒険者の、アルゼルガさんですね」


「あの、槍使いのアルゼルガ、ですか」


騎士や兵士であっても、冒険者事情に多少詳しければ思い出す名であり、冒険者として活動していた者であれば直ぐに思い出す強者。


「そのアルゼルガさんで合っていますよ。知ってるかもしれませんが、ちょっと銀獅子の皇とぶつかった……いえ、ぶつかる寸前だったことがあるんですよ」


その話は騎士たちも知っていた。

当初は殆どの者が冗談だろうと思っていたが、当主であるガレンが真剣な表情で話していたということもあり、全員がゼルートの安否を心配した。


「まぁ、特に問題が起こることなく解決は出来ました。ただ、その後に銀獅子の皇の本部……クランハウスに行くことがあったんですよ。そこでアルゼルガさん槍同士でちょこっと模擬戦をしました。勿論本気じゃありませんし、決着も着きませんでしたけどね」


珍しくも特別な内容ではない。

そんな様子で話すゼルートだが、Aランク冒険者が専門とする武器で応戦した。


それだけでも騎士たちを驚かせるには十分な内容だった。


「会ったことがある人となれば他にもいるが……でもアルゼルガさんも本気を出してた訳じゃないから……とりあえず、俺が出会ったことがる人物の中では最強格ではあると思います」


「そ、そうなんですね」


若い騎士はもっと本人から聞きたいことがあったが、もう直ぐ夕食の時間だと告げられて解散。


ゼルートはアレナたちと屋敷に戻り、久しぶりに家族と一緒に夕食を食べた。

そして夕食を食べ終わってから風呂に入ってスッキリした後……ガレンの部屋に呼ばれたゼルートは本日に二度目の思考が停止する報告を伝えられた。

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