少年期[746]戦争での戦いでは……
「……ゲイルとブラッソの模擬戦も凄かったけど、ゼルートとブラッソの模擬戦もまぁ……ガンガンぶつかるわね」
ルウナとの戦いはお互いに鋭い攻撃を繰り出し、躱す。
これを交互に行う形になっていたが、ブラッソとの戦いでは力と力のぶつかり合い。
お互いに攻撃を放てば受け止め、もしくは相殺。
それを何度も何度も繰り返し行い、結界の内側の地面は既にボロボロになっていた。
「これ、ラルとラームが結界を張っていなかったら、とんでもないことになってるでしょうね」
「はっはっは! それはそうだろうな。ブラッソの攻撃は私の攻撃より重い。そしてゼルートともそれに合わせるように力を開放している」
「まさに力と力のぶつかり合いって感じね」
ゼルートの外見だけを見れば、とても巨漢とぶつかり合える力がある様には思えない。
しかし、この世界では体が小さい者が、大きい者を力でねじ伏せるという光景が珍しくない。
「もし、二人が結界を張っていなければ……余波で辺りの地面は抉れ、屋敷は当然破壊されているだろう」
「でしょうね。二人とも結界が無ければもう少し大人しく戦ってるでしょうけど、ラルとラームが頑張ってるお陰でそれなりのパワーを出してる。並みのモンスターが観たらビビッて全速力で逃げだすわ」
「同感だ。全力で逃げだすか……もしくは、自分が殺されてしまうところをリアルに想像してしまい、気を失ってしまうかもしれない」
「そういうパターンもありそうね」
目の前で行われている模擬戦を再現出来るかと尋ねられれば、二人は即座に首を横に振るう。
(ゼルートがとんでもなくぶっ飛んだ実力を持ってて、軍隊を一人で全滅出来る可能性があるのは知ってたけど、改めてブラッソが戦う様子を観ると……力だけでなんとか出来ちゃいそうね)
大盾や防御系のスキルなど構わず粉砕し、鎖や鞭などの拘束なんて意味ないかの様に引き千切り、殴殺。
ブラッソが攻撃を行う度に人が宙を舞う。そんな光景が容易に想像できてしまう。
(ブラッソの攻撃なら実力者でも下手をすれば一発で即死しそうだから、宙を舞うのは人ではなく死体ね……なんかもう、傲慢かもしれないけど今度の戦争は私たちだけいれば十分な気が……それはちょっと考えが甘過ぎね)
傲慢な考えを頭から消す。
しかし、一般的な戦争ほど多くの兵士や騎士、魔法使いや冒険者を投入する必要はないように思えた。
「アレナ、今回の戦争は私たちだけで十分ではないか?」
「……言ってしまったわね、ルウナ」
思いはしても、口には出さなかったアレナだが、隣に立つルウナは抑えることなくサラッと口に出した。
「ゼルートが錬金獣を解き放つなら可能性はあると思うけど、向こうだって相当な実力者たちが参加する筈よ。いくらゼルートたちが強くても、全てに対応することは不可能よ」
「むぅ……さすがに無理か」
ルウナは前回のようにラームのサポートがあれば、例え敵が大群で襲って来ようとなんとか出来る自信があった。
(今回の戦いでも、前回と同じようにゲイルたちの中から誰かとペアを組むと思うが……ふふ、誰がペアでも楽しくなりそうだな)
ゲイル、ラル、ラームの中から誰か一人と一緒に戦い、敵軍を相手にする。
それを考えただけで心が熱くなる。
「ちょ、ルウナ。闘気が体から迸ってるわよ」
「すまない。だが、やはりもう直ぐ起こる戦争のことを考えると、自然と感情が昂ってしまう」
「全く……根っからの戦闘大好き人間ね」
モンスターとの命懸けの戦いの中で、不意に気持ちが……闘争心が昂ってしまうのはアレナにも理解出来る。
ただ……戦争という戦いの中では、そういった感情が湧いてくるとは思えない。
(冒険者という職に就いてるのだから、どこかで戦死したという話を聞くかもしれないのは当然だけど……やっぱり私はルウナの様に感情が昂ってしまうことはないわね)
戦争という戦いに楽しさや喜びといった感情が湧かない代わりに、敵は絶対に斬り伏せる。
そんな冷たく、冷酷な決意だけは揺るがなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます