少年期[712]不敵な雰囲気
「まてまて落ち着いてくれ。そんないきなり殺気を出されたら思わずブルっと震えてまうやろ」
オーラスの言葉は決して嘘ではなく、一瞬ではあるがゼルートの体から漏れた殺気は部屋の外まで漏れて通りかかった店員が腰を抜かしてしまった。
「今のところお前さんの実力……後は過去に行った賭けで三つの家を潰したこと。それらの影響があって強引な手段に出ようとしてへんみたいやけど、この先絡んでくる貴族が増えれば増えるほど、外道な手段に出るアホが現れるかもしれへん」
ただ傲慢な態度を表に出すだけではなく、悪魔の所業とも思われる行為を平気で行う狂人は確かに存在する。
「貴族の中にただのアホや馬鹿だけじゃなく、悪行を悪行と思わずやる屑がいるのはゼルートも知ってるやろ」
「……まぁな」
五歳のお披露目会でゼルートに絡んできた令息も、実際に行われることはなかったが中々に屑な発言をしていた。
「ほら、悪獣と戦う切っ掛けになったダンジョンから魔物が大噴出した件。あれも権力者が絡んでダンジョンの存在を伏せとったからやろ」
「……かもな」
大手クランのマスターらしく、そういった情報収集も怠っていない。
「ダンジョンは定期的に魔物を潰さな、大量の魔物が一気に地上に溢れ出す。そんなことはちょっとダンジョンの知識があれば知ってて当たり前のことや。あの件でお前さんがおったから大事にはならんかったけど、最悪の場合……大きな街が三つか四つ潰れててもおかしくなかったで」
誇張ではなく、実際問題としてダンジョンから溢れ出した魔物の戦力を考えれば、そうなってもおかしくはなかった。
もしくは、魔物を纏めるトップが悪獣のような理性がある個体でなければ、溢れ出した瞬間に人が住む街を襲い始める可能性もあった。
(確かに俺以外のメンバーも超強いから、冒険者たちの被害もかなり収まっただろうな……そういうのを考えると、本当にアホ共はやってくれたよな)
自分たちだけで利益を独占したい。
その愚かな考えが多くの人の命を奪おうとした。
結果的にそうなるかもしれないという知識があっても、権力や利益に取り付かれた愚か者はその行為を止めようとしたない。
「と、まぁアホどもはそういうことを平気でするんや。お前さんの性格的に、相手からボロカス言われて引き下がりはせぇへんやろ」
「……解決出来る問題であれば、言葉でなんとかしようとは思う。ただ、喧嘩を売られたんであれば、買ってボコボコにするのが……今までの一連の流れかな」
「やろうな。でもな、連中がいつもゼルートだけを狙うとは限らへん。お前さんの仲間は……うん、全員トップレベルの強さを持っとるから大丈夫やろうけど、その他の友人や知人って言えばえぇんかな。そいつらが狙われるかもしれへん」
「……自分の手を汚さず、俺をひれ伏せさせたいって訳か」
「そんなところやろうな」
屑共がどういったことを考えているのかは分かった。
だが、現在のゼルートは特に拠点を持たずに行動している。
「けどよ、俺は一定の街にずっと居るわけじゃないんだ。そんな状況でどうやって俺に絡むんだ?」
「ドーウルスが拠点ちゃうんか?」
「ちょっと前まではな。今は色んな場所を巡りながら冒険者として活動するつもりだ。この街にはオークションで知り合った貴族から頼み事をされて来たんだ」
「ほ~~~~ぉ。そういう理由やったんか……まっ、貴族も個人の情報もがあるし、裏の連中を使うかもしれへん。色んな手段を使ってお前さんの元に手紙を届けて、ゲスい交渉をするか……ただただ嬲り続けるか。そのどちらかを行うやろ」
オーラスの口から出た内容は、過去に事例がない内容ではなく、ただただ表に出ていないだけ。
冒険者もBランクやAランクまで上がれば一定の権力を持つが、それでも中堅以上の貴族には権力という面では敵わない。
(冒険者はどうやっても権力では貴族や商人に敵わない部分がある……それはゼルートも解ってるんやろうけど……なんや、さっきまで漏らしとった殺気が薄くなってるやんけ)
オーラスが口に出した今後起こるかもしれない件についてゼルートは現時点でとりあえず一つ、有効打を思い付いていた。
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