少年期[707]負けないくらいの素材を

「それで、オルガさん。今度はアレナの聖剣を造ってもらえますか。あっ、先に父さんの聖剣代をお支払いしますね。いくらですか?」


「そうだな……聖魔石をそちらで用意してくれたのは大きい。それを考えると、白金貨二十枚といったところだな」


「分かりました。白金貨二十枚ですね」


ゼルートはアイテムバッグの中から金貨や白金貨が入った財布を取り出し、白金貨を丁度二十枚テーブルの上に置いた。


「はい、どうぞ。ちょうど二十枚あるはずです」


「……うむ、確かに二十枚あるようだな。しかし、全く躊躇しなかったな」


「え? いや、だってオルガさんはしっかり仕事してくれたんで、それ相応の金額を払うのは当たり前じゃないですか」


「そう言ってくれるのは嬉しいが、世の中の戦闘職の者たちが全員ゼルートの様に素直ではないのだよ」


オルガが造り上げた風の聖剣、ホルガストは確かに白金貨二十枚分の価値がある。

正確にはもう少し高いが、オルガの言葉通り聖魔石をゼルートたちで用意した分の苦労料が引かれている。


「オルガさんの言う通りよ。ここから値切りを始める人たちだって結構いるのよ。良い武器は自身が生き残る可能性に直結するけど、懐にある金額も大事だからね」


「……分かるなくはないけど、俺は別に値切りするつもりはないよ。というわけでオルガさん、また白金貨二十枚でアレナの分を造ってください、お願いします」


「勿論受けるに決まってるだろ。だから頭を上げろ。お前さんの様な強者に頭を下げられるのはむず痒い」


ゼルートが真っ当な客で好ましいという理由もあり、アレナの分の聖剣を造ってほしいという依頼は元々受けるつもりだった。


強力な武器を造る際、相手によってはその技量を確認するタイプではあるが、今回は全く己の目で確認せずに制作依頼を受けると決めた。


(いくら普通ではないリザードマンやドラゴンの子供、おかしなスライムを従魔にしているとはいえ五人で突破できる程……六十層のボスは甘くない。この嬢ちゃんも、実力は本物だ)


何人もの戦闘職を視てきたからこそ、実際に戦う姿を見ずとも解かる。

アレナは努力だけでは超えられない壁を越えた強者なのだと。


「造る武器は同じロングソードの聖剣。だが、属性は違うのだろ」


「アレナの得意な属性を考えると風ではないよな……どんな属性にするんだ?」


「そう、ね……」


自身の聖剣を造ってもらう。

それが決まってから、その事についてはそれなりに考えていた。


だが、明確な結論は出ていない。

アレナは器用貧乏が他者との器用貧乏と比べてレベルが違う。


だからこそ、どれもある程度は扱えてしまう。

しかしその中でも今の自分に欲しい要素を考えた結果……一応これだという答えが今、頭の中に浮かんだ。


「雷と火、二つの属性が合わさった聖剣、が欲しいですね」


「ほぅ……二つの属性が付与された聖剣、か。良い注文をするな」


斬撃や鈍器系の武器は、魔法と比べて人の手で造る際に複数の属性効果を付与するのはかなりの腕前が必要になる。


「雷と火か。それなら、聖剣の素材にはこいつを使ってもらっても良いですか」


「こいつは……さっき言ってた、エボルサーペントの牙か……なるほど、まぁまぁ質が良いな」


長い間この街で鍛冶師として働いてきた中で、今ゼルートが取り出したエボルサーペントの牙よりも質が高い物を目にしたことがある。


だが、エボルサーペントは遭遇するその時々によって強さが変わり、こちら側から強さを選ぶことは不可能に近い。


「ありがとうございます。あとは火属性の素材……は、どれにしようか?」


雷属性の素材はエボルサーペントの牙で文句なし。

だが、現在の手持ちの中で火属性……そして聖剣造りの素材として相応しいと思える物がなかった。


「ぜ、ゼルート。私はある程度の物で構わないから」


「いや、適当な素材を選んでしまったら、属性の強味が雷属性に偏ってしまうだろ。やっぱりエボルサーペントの牙に負けないぐらいの素材じゃないと……」


いったいどんな素材を選べばいいか考えていると、オルガが素材を保管している場所へと向かった。

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