少年期[700]使い手は選ぶが

「ふぅーーーーー……分かった、分かったよ。こいつは俺が携帯しておく」


ただ使わないのは勿体ないから押し付けた、という訳ではない。

アレナから純粋に自分のことを心配している。その気持ちが真っすぐ伝わってきた。


(ここまで言われて、アイテムバッグの中に眠らせておくわけにはいかないな)


しかしこの棒……どうやって携帯するべきか。

棒状の武器は確かに存在するが、基本的に使用者は背中に携帯する。


だが、ミスリルデフォルロッドは通常の棒よりも遥かに短い。

短い方がゼルートにとっては有難いが、ロングソードや短剣の様にサラッと携帯できるアイテムが一緒ではない。


(あっ、こうすれば良いか)


ミスリルデフォルロッドは長さの伸縮だけではなく、サイズも持ち主の変化によって変えられる。


「うん、良い感じだな。これで何かあった時は即座に対応出来る」


「指輪タイプに変形させたのね。良いじゃない、似合ってるわ」


「うむ、これで高品質な武器が腐ることなく活きるな」


実際のところはそこまで扱う機会は多くないだろうが、マジックバッグの中にしまっていると、その存在を仲間に言われるまで忘れてしまう場合がある。


しかし、指という場所に携帯することによって、嫌でもその存在が目に入る。

ゼルートも決して高品質な武器を嫌っているわけではないので、状況によって使うことを躊躇いはしない。


「それじゃ、サクッと次の宝箱も開けるか」


コロシアム七戦をクリアして得た報酬のうち、三つ目の宝箱。

ここまでランク八のハンマー、裂土豪災。

そしてランク七の形状を自由に変化出来るミスリル武器、ミスリルデフォルロッド。


次はいったいどんな驚く物が入っているのか。

冒険者でなくともワクワクが止まらないこの状況。


ゼルートはそんな胸の高鳴りを感じながら、三つ目の宝箱を解錠。

そして蓋を開けると……そこには、一つの杖が入っていた。


「杖、だな」


「そ、そうね……どこからどう見ても杖ね」


勿論、ただの杖ではない。

そんなことは三人とも理解している。

理解しているのだが……残念なことに、ゼルートたちのチームはとてもバランスが悪いが、基本的には全員接近戦タイプのアタッカーなのだ。


故に……杖を使う様なタイプの戦闘スタイルを持つ者が一人もいない。

これはアルバラスやミスリルデフォルロッドと違い、本当に実戦で使う者がパーティー内にいなかった。


「どう視てもハズレの武器ってわけじゃないんだろうけど…………全員使わないよね」


「そ、そうね。これに関しては……うん、使わないわね」


「勿体ないな……ん? ちょっと待て。そういえばゼルートは剣術や体術よりも魔法の方が才能は上だった筈……ということは、やはりゼルートが使うことになるのではないか?」


「い、いや。マジで俺は杖を使わないタイプだし、わざわざ長所を潰して使おうとは思わないぞ」


宝箱の中に入っている杖はそれなりの頑丈さは備えているが、接近戦でも使える武器と比べればやや性能は劣る。


「まぁ、とりあえず視るけどさ」


まさかの基本的に誰も使わないような高品質アイテムが入っていた。

その事実にどうすれば良いのか迷いながらも鑑定眼を使い……詳しく調べると、アルバラスや裂土豪災にミスリルデフォルロッドと同じく、他の武器とは明らかに性能が違う性能を兼ね備えていた。


群滅の聖杖 ランク八


装備者の魔力量を増やし、火と風と光魔法を使う際に効果や威力を増加。

魔力操作のコントロールを補正。広範囲の攻撃魔法、回復魔法を使う際には更に効果を倍増させる。

装備者の魔力による結界の強度を高める。


専用技はインフェルノストーム、ラージアスヒール。


(うわぁ~~~~~……間違いなく、超一級品だな。専用技が二つもあるし……少し使い手は選ぶようだけど、それでもオークションに出品すれば黒曜金貨に値が届く質の高さなのは間違いない)


これまた腐らせるのは良くない一品だが、この杖に関してはもう誰が使った方が良いという言葉は出なかった。

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