少年期[699]完璧でも不意を突かれれば……

「これはミスリルの棒、か?」


二つ目の宝箱に入っていた物はミスリル製の棒だった。

ただ、三人ともただの棒ではないことは解っている。


「武器、よね。でも、どうやって扱うのかしら? この長さじゃ武器としては不十分だし」


「どう考えても鉱石じゃなくて棒だから武器だとは思うが……まぁ、視てみないことには細かいことは解らないよな」


鑑定眼を使って調べると……これまた使いやすい武器だとゼルートは確信した。


ミスリルデフォルロッド ランク七


ミスリル製の棒。伸縮可能だが、両端の形状を持ち主の意思によって変形することが出来る。

万が一砕かれたとしても、魔力を注げば再生する。


魔力を纏えば火力が強化される。

棒状態であれば持ち主の身体能力を強化。

両端の形状を変形することによって、強化効果が変化。


「伸縮可能で両端を好きな形状に変形できる。刃が欠けたり砕けたとしても魔力を注げば再生可能。当然、身体能力を強化する効果が付与されている。加えて、両端の形状を変化させることによって強化の能力が変わる」


「なるほどね。まさに変幻自在のミスリル武器ってところね……ねぇ、それは盾にも変形できるのかしら」


「盾か……やってみるか」


正確なイメージをミスリルデフォルロッドに送る。

するとまずは持ち手が変形。そして両端が薄く広がり……半円に形を変えた。

結果的に隙間がなくなり、外見が完全に盾へと変わった。


「おぉ~~~、良い感じだな。うん、咄嗟のタイミングで盾にも変形出来るのは良いな」


「確かに優秀な武器ね。さて……これは誰が使うべきかしら」


「え、今すぐ決めるのか?」


「ランク七の武器よ。なるべく誰が使うか決めておいた方が良いじゃない。あっ、ちなみに私はミスリルのロングソードがあるから大丈夫よ」


「私は先程のアルバラスがある」


「……おいおいおい、ちょと待て。もしかして俺が使うのか? さっきの裂土豪災だって一応俺が使うんだぞ」


二人の視線がゼルートに向けられたが、本人は既にお腹一杯。

ミスリルデフォルロッドがどれだけ良い武器なのかは解っている。


だが、今のところ新しい武器は必要ない。


「ゼルート……あなた、普段使ってる武器はそんなに質が高い武器じゃないでしょ」


「うっ……ま、まぁ。そりゃそうだけどさ。でもほら、そこは俺のポリシー……じゃないけど、良い武器を使ったら直ぐに戦いが終わるかもしれないだろ」


「強い相手はあなたが本当の本気を出さない限り、そう簡単に壊れないから安心しなさい」


「アレナの言う通りだな。ゼルートが戦っていて楽しいと思う相手は、簡単に潰れるほど脆くない筈だ」


正論をぶつけられ、反撃する言葉がない。


(そ、そりゃそうかもしれないけどさ……俺としては、こういう武器をコレクションとして集めるだけでも、そんなに悪くないと思ってるんだけどな)


アレナと同じく、武器はやっぱり実戦で使わないと勿体ないという思いはある。

しかしゼルートには収集欲が少なからずあるので、レアリティが高い武器を集める……それだけで満足してる部分があった。


「別に俺はこの前の探索で使ってたダマスカス鋼の大剣とかでも満足してるし……」


「ダマスカス鋼の大剣が悪いと言わないわ。けど……いつ不意に強敵が現れるか分からないでしょ。ミスリルデフォルロッドを常に使えって言ってるんじゃないの。ただ、いつでも抜けるように携帯していたほうがゼルートの為なの」


ゼルートは強い。あり得ないほど……想像が付かないほどの強さを持っている。

それは一年以上傍にいたので、十分過ぎるほど解かっている。


しかし、そんなゼルートでも不意に強襲を食らうかもしれない。

そんな心配心から……アレナは是非ともミスリルデフォルロッドはゼルートに使って欲しいと思った。


確かにミスリルデフォルロッドはアルバラスと同じぐらい扱いやすい武器だが、その時々に合わせて両端を……もしくは全体を変形させる。


そのスタイルを完璧に使いこなせるのはパーティーの中でゼルートしかない。

それはアレナだけではなく、ルウナも同じ事を思っていた。

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