少年期[664]アホ過ぎて言葉が出ない

「えっと……それはどういう意味だ、ドルントさん」


「そのまんまの意味じゃ。お前さんは貴族と衝突しやすい性格じゃと思ってな」


思い当たる節が多いので、全くもって反論出来ない。


「お前さんがとんでもなく強い。それはもう知っている……だからこそ、自分より弱い連中がしょうもない……もしくは理不尽な理由で自分に刃向かってくると、絶対に潰してやりたい。そう思うじゃろ」


「絶対にぶっ潰してやりたいな。こう……木っ端微塵にするのはよろしくないな。でも残りの人生で存分に後悔するほど潰したいとは思ってる」


「やはり誰が相手でも強気なんじゃな。それでは戦争時に自国の貴族と衝突する姿が容易に想像できる」


「いや、戦争中なんだから衝突してる暇なんてないと思うんだが」


潰さなければならない相手は戦争相手の隣国。

いくら冒険者を毛嫌いする貴族であっても、馬鹿な行為はさすがに起こさないだろう……と、思っているゼルートの考えは少々甘かった。


「お前さん、貴族の一員なのにそこら辺の事情が疎いみたいじゃな」


「は、ははは。読み書きと計算はあるていど覚えたけど、それ以外のことに関してはあんまり興味無かったら特訓したりモンスターと戦ってばかりの毎日だったからな」


「……笑っていいのか微妙な過去じゃな。貴族は戦争に参加して自分……もしくは息子に実績を持たせようとする」


「それはあれか、権力向上のためか?」


「だろうな。噂で聞いた話じゃが、ライバル視している貴族を戦争の最中に罠を仕掛け、大打撃を与えたという話を聞いたことがある」


「おいおいおい、ちょと待て。流石にそれは笑えないぞ」


貴族が汚い手を使うのはよくあること。

それはゼルートも解っていたが、戦争中に……しかも自国の貴族を私的な理由で罠にはめる。


そんな暴挙を起こす馬鹿がいるとは思っていなかった。


「噂話じゃから、本当かどうかは分らん。しかし貴族の中には自分の欲を満たすために手段を選ばん奴もおるからの」


「あぁ、それは良く解る。俺の姉に惚れたアホ貴族が暗殺ギルドにまで手を出して、姉を自分の物のしようとした事件があったからな」


「……お前さんも中々ハードな人生を送っておる様じゃな」


「まぁ、それなりに刺激的な人生を送ってる自覚はある……それで、ドルントさんが言いたいのは戦場を暴れ回って敵を倒しまくる俺にアホな貴族がいちゃもんを付けてくるってことか」


何故自分が戦場で自国の貴族と衝突するのか、ようやくその理由に納得がいった。

いや、理由は解ったがゼルート自身が納得したわけではない。


「そういうことじゃな。お前さん、絶対にそこら辺を考えずに敵兵を倒すじゃろ」


「そりゃ勿論。自分の力で倒せる奴はどんどん倒していくに決まってるだろ。なんで貴族の事情を考慮して介護プレイしなきゃいけないんだって話だ」


「……はっはっは!!! 介護とは言い得て妙じゃな。しかし、あまり貴族に対して反抗的な意を示すのは良くないと思うが……その辺りは事前に対策しておるのか?」


「何人か良好的な知り合いはいるからな……ただ、俺は大丈夫でも父さんの方が心配になるな。あと兄さんもか」


ゼルートを襲おうとしても、よっぽどの策を用意しない限りは全て返り討ちにされてしまう。

だが、身内はそう簡単に対処出来る力を持っていない。


(……強力な武器は父さんだけじゃなくて、兄さんや姉さんにも渡しておくべきだな。 いや、三人だけに渡すと母さんが拗ねるか? あと、武器だけじゃなくて錬金獣を……父さんの傍にはブラッソがいるし、置いていった錬金獣たちがいるから問題無いとして、兄さんと姉さんにはそれぞれ……最低でも一体ずつは用意したいな)


超絶過保護と思われるかもしれないが、家族を害悪共から守る為ならば一気に思考のブレーキが壊れ始めた。

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