少年期[662]持っていても不思議ではない

「お待たせ……なんか疲れた顔してないか?」


「ゼルートを待ってる間にモンスターの素材ゲットの依頼を受けてくれないかって頼まれてたのよ」


「あらら、それはご愁傷様。その様子だと、全く受けなかったんだろ」


「えぇ。魅力的な報酬があればゼルートに相談して受けても良いかなって思ったけど、そう思えるほど魅力的な依頼はなかったの」


冒険者として金にも装備にも困っていないゼルートたちを満足させる報酬を用意するのは、容易なことではない。


「それで、聖魔石の量はどうだったの」


「頼まれた分と、もう一本ロングソードが造れる。それと、短剣であればもう一つ造れるぐらいの量があった」


「それはラッキーね。二本分のロングソードが造れるだけでもそれなりに運が良いのに」


「我らがラーム様がいるからな」


「えっへん!!!!」


褒められたことが嬉しく、大きく胸をそってドヤ顔するラーム。

だが、事実としてラームがいなければ聖魔石が一発で手に入る確率……更にロングソード二本分と、短剣一本分の量が手に入る確率は超低かった。


(ラームが強奪でダンジョン内のモンスターから運を奪ってくれなかったら、何回も六十階層のボスに挑んで倒すことになってただろうな……運なら強奪で奪えば良い。それを考えた時にナイスアイデアだと自分で思ったけど、運を奪う対象を人からモンスターに変えるって考えが出てきてマジで良かったよな)


ラームの強奪を使用し、他人から運を奪ってカジノで儲けに儲けたことがあった。

その件を思い出し、運を他者から奪えば望みの品である聖魔石が手に入ると思い付いた。


だが、同業者から運を奪うのは気が引けた……というよりも、よろしくない状況を与えてしまうかもしれないと思った。


運を奪うイコール、不幸になるという検証は行っていないので、ラームが運を奪った冒険者が不幸な目にあうのか分からない。

それを考えると、容易に同業者からダンジョン内で運を奪うことは出来なかった。


「それでもう一本聖剣を造れそうだから、父さんの聖剣を造ることにした」


「ガレンさんの聖剣ね。それは良さそうね……うん、ガレンさんなら問題無く扱えるわ」


冒険者を引退したガレンだが、アレナからすれば憧れの人物に変わりない。

そんな元冒険者が聖剣を持ち、戦場を駆ける……一ファンとしては是非その姿を見てみたい。


「……アレナ、もしかしてお前も聖剣が欲しいの?」


「えっ、別にそんなことないわよ。今回の探索で使った闇槍は使いやすかったし、普段使ってるミスリル製のロングソードも良い相棒。これ以上高望みすると罰が当たりそうよ」


ミスリル鉱石を使用した武器を持つということは、冒険者として一種のステータスを得たことになる。

基本的にミスリル鉱石、もしくはそれを使用した武器の値段は短剣であっても高い。


CランクやBランクの冒険者でも中々手が届かない。

そんな武器を持っている。そして自分が使ってもいい武器はそれだけではない。

圧倒的に環境に恵まれている。元Aランク冒険者のアレナにはそれが深々と解る。


故に、現時点ではこれ以上何かを望もうとは思わなかった。


「?? なんでだよ。別に良い武器を望むのは悪いことじゃないだろ。俺だってレアな武器が手に入ればテンション上がるぞ」


「でも、殆ど使わないじゃない」


「うっ……それは、あれだよ。別にわざわざ弱点を突く様な武器を選ばなくても良いからだよ」


ゼルートは高レベル水準で各属性魔法が使用出来るので、相手の弱点属性を突くなど朝飯前。

長剣や槍の扱いは勿論、素での格闘戦も上等。


斬撃、貫通、打撃。それらの攻撃をハイレベルで行えるので、わざわざ武器を選んで弱点を突く必要がない。


「てか、俺のことは良いんだよ。聖剣に関してはガラドボルグがあるからな。俺としてはアレナが聖剣を装備するのは全然ありだと思ってる」


「私も同感だな。アレナほどの腕を持つ者ならば、聖剣を使用していても全く不思議ではない」


この意見はアレナ以外全員が一致する考えだった。

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