少年期[639]自身が思っているよりも……

「それで、強さはどの程度だったんだ?」


ルウナとしては、やはりそこが一番気になった。

銀獅子の皇という大手のクランに所属するAランクのランサー。


弱い訳がないということだけは解る。


「強かったぞ。流石Aランクの冒険者ってだけあるなって思った」


「素直に褒めるのね」


「そりゃ実際に強かったからな。中途半端なAランクって感じはしなかった。単純な槍だけの技術なら、俺は負けてるだろうな」


「本職の槍使いに槍で挑むってのもおかしい話なのだけど」


Aランクの槍使いともなれば、素人からすれば手が届かない神の様な存在。

ある程度の経験を積んだ槍使いでも、本当に自分はあの高みに届くのかと不安になるレベルの高さ。


「そうか? 最近の実戦では使ってなかったけど、槍の訓練はそれなりに積んでたぞ」


「それでも、ゼルートが一番得意な武器はロングソードでしょ。Aランクの槍使いに槍で模擬戦を行うなんて、普通は負けるわよ。攻撃方法は槍だけなのでしょ」


「おう。せっかくAランクの槍使いと戦えるんだからな。その辺りを楽しまないと損だろ」


「……やっぱり頭のネジが一本外れてるわね。それで、結局身体能力でその差をカバーしたのね」


「そういうことだ。反射速度は俺の方が速かったみたいだからな」


「ゼルートがそこまで褒める槍使いから……是非私も戦ってみたいものだ」


根が戦闘狂であるルウナの感想はいつもと変わらず、通常運転。

だが、自分の力にそれなりの自信があるルウナはアルゼルガ相手に、楽に勝てるとは思っていない。


(ゼルートと冒険者活動を始めてからそれなりに強くなったと思うが、はたしてAランクの一流冒険者に勝てるかどうか……こうして悩んでる時点で、まだまだということだな)


自分が本当の意味でゼルートの力になれるのはまだまだ先だ。

そう思い、更に強くなると誓うルウナだが、その実力は既にAランク冒険者と大して変わらない。


だが、直ぐ傍に超規格外な存在がいるためか、その向上心が消えることはない。


「強者との模擬戦が悪いとは思わないけど、模擬戦をするならそれなりの手順を踏んでよね」


「てか、明日から五十一階層の探索を始めるんだし、強い奴との戦いには困らないんじゃないか」


「そういえばそうだったな。五十一階層……やはり今まで以上に強い魔物が現れるのだろうな」


魔物がいくらでも溢れ出る場所、ダンジョン。

戦いが大好きなルウナにとって、これ以上なく欲求を満たせる場所。


「五十一階層からはより光属性の特徴を持つ魔物が増えるわ」


「光属性ねぇ……どうせなら闇槍をメインで使ってみるか」


闇と光は表裏一体。

闇は光に有効であり、光は闇に有効。


本日久しぶりに槍を使ってバチバチに戦い、魔物との実戦でも使ってみるのもありだなと思えた。


「ゼルートは闇の魔法が使えるのだし、わざわざ属性が付与された武器を使い必要はないんじゃないか?」


「そう言われればそうだな……なら、アレナかルウナ使うか? どっちも基本的な使用方法は解るだろ」


二人共メインで槍を使うことはないが、ゼルートと同じくそれなりには使える。


「私はやはり接近戦で戦う方が性に合っている。闇槍はアレナに譲ろう」


「……それなら、有難く使わせてもらおうかしら」


「オーケー、後で渡すよ」


ゼルートはいつも通りロングソードと体術、魔法を使って戦うと決めた。


(せっかく闇の魔力が使えるんだし、武器や拳に纏わせてどれぐらい有効打になるのか試してみるか)


あまり光属性の魔物とは戦ったことがなく、どれだけ闇の魔力有効なのか試したことがない。

四十一階層から五十階層まで光属性の魔物と遭遇したことはあるが、大抵は数撃で終わってしまって試そうという気が起こらなかった。


(五十一階層からはそれなりに魔物は強くなるだろうから……それなりに力を出しても大丈夫だよな)


明日からの探索が楽しくなってきたゼルートだが、一つ大事なことを忘れていた。

確かに階層が下にいけばいくほど魔物は強くなる。


しかし、ゼルートはまだまだ本気を出していない。

相手が強くなったからといって、出力を上げれば……結果は変わらない。


それが現実なのだが、気分良く夕食を食べているゼルートは全くそのような事を考えていなかった。

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