少年期[625]まだ残っている

「ぼ、坊主……それはマジでか?」


「あぁ、マジだぞ一段階進化していたエボルサーペントだったけど、全員で戦ったから余裕だったよ」


「一段階進化したエボルサーペントを余裕って……」


普通は信じられない話だ。

大手クランの一軍でも、一段階進化したエボルサーペントを倒すのは苦労する。


全員が生き残れたとしても、多大な魔力と体力を消費するので、どうしても顔に疲れが現れる。

だが、ゼルートたちの顔には一切疲れが現れていない。


「な、なぁ。エボルサーペントの魔石を、見せてもらっても良いか?」


「良いぞ。ほら、こいつがエボルサーペントの魔石だ」


躊躇うことなく解体士にエボルサーペントの魔石を渡す。


解体士はこれまでに何度もエボルサーペントの魔石を見てきたので、鑑定系のスキルを持っていなくても、エボルサーペントの魔石か否かが解る。


(こいつは……本当にエボルサーペントの魔石じゃねぇか。確か坊主には三体の従魔がいるらしいが……それでも六という数で倒せるものなのか?)


大手のクランでさえ、一流どころを十人ほど集めたバランスの取れたパーティーで討伐に挑む。


基本的には六人で倒す様な魔物ではない。


「……凄いな、お前ら。って、エボルサーペントの素材は売らないのか?」


「こいつは自分たちで使おうと思ってな」


「なるほど……そうだな。お前さんなら、それが可能だな」


容量が尋常ないほど多く、中に入れている物の時間が永遠に止まっている。

そんなアイテムバッグの中に素材を入れておけば、使うタイミングは自分で選ぶことが出来る。


(羨ましい限りだ。容量が多く、中の時間が止まるアイテムバッグ。冒険者じゃなくても欲しいぐらいだ……まっ、そんな高価過ぎるマジックアイテムを持っていたら色んな連中に狙われるだろうがな)


冒険者に限らず、商人や貴族。

多くの職業の者たちが欲しがる最高級のマジックアイテム。


実際にゼルートが持つアイテムバッグや、アイテムリングを奪おうと考えた権力者は数多く存在する。


しかしゼルートが過去に起こした一件や、アゼレード公爵家と縁を持っている。

そのようなバッグが存在することで、大半の者たちはゼルートから奪うことを諦めた。


だが、それでも諦めきれない権力者たちが裏の者たちに依頼しようとするのだが、そういった連中も馬鹿ではない。

対象の人物がいったいどれほどの実力を持ち、権力者との繋がりはあるのか等を調べる。


その結果……権力者からの依頼を受ける裏の者たちはいなかった。

ゼルートの本当の実力は見抜けていなくとも、直ぐ傍にいるアレナとルウナの実力がまず飛び抜けている。


そして後々に凶悪な力を持つ三体の従魔を従えていることが判明。


とある日にはゼルートの姉に手を出そうとした裏のギルドが屈服させられ、逆に依頼主をボコボコにするという事件まで起きた。


情報をこまめに集めている裏の人間であれば、その件についてもだいたいは知っている。

極めつけはダンジョンから溢れた魔物を一斉討伐する際に、悪獣をソロで倒したという大事件。


これについては流石に嘘だろと思う者が多かった。

裏の人間だけではなく冒険者や商人、一般人……多くの者が十代前半の子供が一人で悪獣を倒したという真実を信じなかった。


だが、あの日の討伐の為に集まった冒険者たちは異次元の戦いを行っている悪獣とゼルートをその目で見た。

その光景を嘘で潰そうとはせず、訊かれればありのままの事実を話す。


中には自分のプライドや自尊心を守る故に嘘を話す愚か者もいたが、ランクが高い冒険者ほど嘘を話さず、事実のみを話す。


そしてその件でゼルートだけではなく、パーティーメンバー達の実力の高さも広まった。


ゼルートを含め、パーティーメンバー全員が化け物級の実力を持っていることが知れ渡り、裏の世界に生きる実力の高い者であっても、容易に手が出せない存在となった。


ただ……ゼルートが持つアイテムバッグとアイテムリングを奪おうと考えている者が完全にゼロではなく、今後権力者の魔の手が襲い掛かる可能性は残っている。

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