少年期[570]知っていても驚く

ギルドにやって来たゼルートは周囲から集まる視線を気にせず、素材や魔石の買取場までやって来た。


「素材の買取をお願いします」


「かしこまりました。それでは素材の方をこちらにお出しください」


ゼルートの現ランクを考えればアイテムバッグやリングを所有することは不可能に近いが、冒険者界隈で有名になっているゼルートがアイテムバッグを有していることはギルドの職員であれば大半の者が知っている。


そしてゼルートはこのギルドで一度韋駄天のベーザルと絡んだことがあり、その実力は本物だと証明されているので侮る職員はいなかった。


「……これぐらいかな」


「ず、随分と多いですね」


「そうですか?」


これからダンジョンに潜り、地上に戻ってくる度に買取をお願いしようと思っているので、今回出した量はゼルート的にそこまで多くないつもりだった。


それにアイテムバッグの中にはまだ解体されていない魔物の死体もあるので、今後売ろうと考えている魔物の素材は今出した山積みの素材の何十倍もある。


「とりあえず、今日はこれだけお願いします」


「かしこまりまし。査定してまいりますので少々お待ちください」


複数の職員がやって来て一斉に査定を始める。

少々時間が掛かるのでゼルートは離れた場所で結果を待つことにした。


「受付のお姉さん、結構驚いてたな」


「そりゃそうでしょう。ゼルートとしては小出ししたつもりでも、あれだけの量を一度に出せば驚くものよ」


「……一つのパーティーが出したからか?」


「そうよ。大金を稼ぐために複数のパーティーがダンジョンに潜った結果ならあれより多くの素材や魔石を手に入れることは出来るでしょうけどね」


パーティーの意志や利害が一致すれば、一時の間だけ合同でダンジョンに潜るケースは良くある。

戦力が増えれば安定して魔物を倒すことができ、死体を解体する時も安全に作業を行える。


「でも、俺達にはゲイル達がいるんだぜ。合計で六人だ。一つのパーティーの戦力としては普通に考えて多いだろ」


「……かもしれないわね。他に理由があるとすれば、アイテムバッグの容量じゃないかしら」


「容量……あぁ~~、なるほど。良く解った」


自身が持つアイテムバッグの異常さは解っているので、何故職員が驚いた顔をしたのか理解した。


(でも、そこまで多くは無かったと思うんだけどな)


真面目にそう思うゼルートだが、基本的にアイテムバッグには討伐した魔物の素材や魔石にも探索に必要な道具を入れる必要がある。


それらを考えると、一般的に買い取りに出される量としては少々多かったのだ。


「それにしても……やっぱり視線が集まるもんだな」


「いつもの事でしょう。気にしてもしょうがないわよ」


「アレナの言う通りだな。ただ、今回は私やアレナよりゼルートに視線が集まっている様だな」


容姿やスタイルが飛び抜けている二人に視線を向ける男性冒険者はいつものように一定数いるが、それよりも韋駄天のベーザルに圧勝したゼルートに注目が集まっている。


「……野郎の視線が集まっても嬉しくないんだけど」


「女性の冒険者だって目を向けていると思うぞ」


「・・・・・・」


それはそれで悪くない。

だが、基本的に関わることが無い冒険者には興味が無い。


「だとしても、あんまり遠目からジロジロと見られるのはなんか……あんまり良い気分じゃないな」


「どういった感情を持って視線を向けてるのかにもよるけど、大抵はそんなものよ。それに、ゼルートには正式に覇王戦鬼って二つ名が付けられるかもしれないのだから、これからはもっと注目が集まる筈よ」


「はぁ~~、それは嫌だな。もうちょい大人しい二つ名の方が良いんだが」


二つ名なんてどれも中二病的なものばかり。それは解っている。

ただ、覇王戦鬼は今の自分に合わな過ぎるというのが正直な感想であった。


「ゼルートさんっ!! 査定が終わりました」


「は~~い」


一先ず二つの件は頭から放り出し、買取金額を受け取りに行く。

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