少年期[569]来ない違和感

三十階層のボスを倒したゼルート達はそのまま三十二階層まで探索を進めたが、そろそろ一日たったので地上へ戻った。


そして一行はギルドへと向かっていた。


「急にギルドに向かんなんて何をするのかと思えば、素材を売りに行くのね」


「そういう事だ。アイテムバッグの中に結構魔物の素材が貯まってるからな錬金術とかで使える素材はあるけど、使わないだろうなって素材も多いからさ」


食用に使える肉は取っておくと決めているが、その他の爪や牙に毛皮等、Cランク以下の素材は殆ど使わない素材も多い。


なので、ホーリーパレスに潜っている期間、ダンジョンから地上に戻る度に素材をギルドで売却しようと決めた。


「そのアイテムバックに貯まっている素材、ねぇ……それだけで一財産になるでしょうね」


「ゼルートのそれは異次元だからな。素材を全て手に入れるということは、冒険者にとって羨まし過ぎる力だ」


ゼルートが空間魔法を使用して造られたアイテムバックは中の物の時間が止まるだけではなく、容量が無限大だ。

勿論、容量を制限して造る事も出来るが、力を最大限に利用すれば時間停止と容量無限大の効果が付与されたアイテムバックやリングを量産出来る。


(どう考えても絶対に知られてはならない能力だよな)


因みにゼルートがホーリーパレスの中で手に入れた宝箱の中にもアイテムバックやポーチが入っており、ゼルートは一パーティーが持つ数としては考えられな程のアイテムバッグやポーチなどを持っている。


「ゼルート様、全てをお売りするのですか?」


「いや、食用の肉とかは全部残しておくつもりだ。後、ある程度質の良い素材に関しては残しておく」


「その方が良いでしょうね。それか、ご両親の方に素材を渡すのもありじゃない?」


「……素材を元に戦力増強って事か」


「そういう事よ。やっぱり実力に見合う装備は必要よ」


ゼルートの実家に仕えている兵士達ガレンが鍛えているだけあって、他の領主の兵士達と比べて実力が高い。

だが、実家の周辺に生息している魔物はそこまで強い魔物は存在していない。


なので、武器や防具を造れる鍛冶師はいても、良質な素材が中々手に入らない。

今は少し前にゼルートが大人買いした武器を渡したが、ガレンの治める領地が少しずつではあるが発展しており、領主に仕える兵士に就職する者も増えている。


(……戦争が始まる前にもう一回実家に寄っておくか。このダンジョンでも多くの素材や魔石が集まりそうだしな)


ホーリーパレスはゼルートが過去に潜ったダンジョンより更に深い。

そして遭遇する魔物達のレベルやランクも高い。


「それにしても、本当に怖いぐらいに進めるわね」


「ダンジョン探索がか? 順調に進めるのは良い事だろ。正確な地図を使ってるから潜れてるってのはあるけど」


「それはそうだけど、なんか……違和感があるのよね」


「・・・・・・まだ俺達に、正確には俺にか。俺に恨みを持っている人物からの襲撃がないからか」


「……そう、ね。多分それだと思う」


この街に来てから二度ほど同業者から恨みを買っているゼルートはいつ狙われてもおかしくない。


(我ながら勝気な性格だとは思うけど……うん、多分治らないだろうから気にしないでおこう。てか、韋駄天のベーザルにはある程度力の差を見せたんだから大丈夫だと思うんだけどな)


何度も殴り合った訳ではないが、それでもゼルートはベーザルから一撃も貰うことなく、力の差を示した。

なので九割方韋駄天のベーザルから襲撃は無いと考えている。


(……他人の思考を完全に読める訳じゃないから断定することは出来ないけどな)


「もしかしたらだが、私達があんまりにも速く潜っていくからその機会が無いのではないか?」


ルウナの考えに二人は少し考えてから納得した。


「そうかもしれないな。普通に考えれば俺達が降りてる速度は異常だもんな」


「ルウナの言う通りね。休息時でもゲイル達がいるのだから不用意に攻撃は出来ない」


ゼルート達の戦いぶりを観て、自分達では敵わないと撤退したという可能性もある。

何はともあれ、ゼルート達を狙えば命の保証が無いという事だけは事実だ。

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