少年期[540]馬鹿が下に行かないように

「……中も広いな」


クリーワイトの冒険者ギルドは三階建てとなっており、かなり……いや、無茶苦茶広い。

中には玉石混淆といった感じで冒険者が数多くいる。


(強い人もいればベテランも、そして駆け出しって感じの人もいる。当たり前だけど、ダンジョンという幅広い狩場があれば冒険者の質が一定では無い、か)


ゼルートの眼から視ても強いと解かる者はちょいちょいいる。

とりあえずダンジョンの情報が欲しいのでゼルートは真っすぐ受付嬢が待機している場所へと向かう。


ギルドの中に冒険者が入ってくるのはいつものこと、寧ろ当たり前で当然。

しかし一人の冒険者がゼルート達に視線を止め、それに釣られて他の冒険者達も視線がゼルート達に集中する。


その理由は様々だが、一番の理由はメンバーの構成がちょっとアンバランスだから。


先頭を歩くまだ駆け出しに見える少年。

その後ろに続く一人は人族の美女、そしてもう一人は狼人族の美少女。


更にその後ろに続くのは厳つい顔をしながらも、イケメンに見える一人の男。

そしてニコニコと笑顔が絶えない戦闘の少年よりも体が小さく、幼いと解かる少年。

最後に狼人族の少女よりも幼い少女が一人。


誰がどう見てもアンバランスなパーティーだと思うだろう。


「すみません、ここのダンジョンの情報を教えて貰っても良いですか」


「クリーワイトに来られるのは初めてですか?」


「はい、なので先にダンジョンの情報が欲しいと思って」


「かしこまりました。何回層までの情報を買いますか」


階層の情報。ホーリーパレスは特にダンジョンの構造が入る度に変化するような冒険者から嫌がられるダンジョンでは無いので、しっかりとマッピングされた地図やその階層に出てくる魔物や採集出来る薬草などの情報をギルドが保管している。


そしてホーリーパレスの中身を一切知らない冒険者達は基本的に中に入る前に、ギルドでダンジョンの情報を買う。


ただ、中にはワクワク感を感じたいと言って何も情報を得ずに挑む馬鹿や、金が無いのでそちらに金を回す余裕が無いルーキーがそのまま挑むことがある。

そういった者達の多くダンジョン内で怪我を負うか、最悪死んでしまうケースが多い。


「今解っている分、全てください」


「……え?」


まさかの答えに受付嬢は思わず間抜けな声を漏らしてしまう。

ただそれは担当している受付嬢だけでは無く、他の受付嬢や男性職員や周囲の冒険者達も同じだった。


「えっと、その……六十五階層まで全ての情報を、ということで宜しいのですか?」


「はい、そういう事です。もしかして結構高い感じですか?」


「そ、そうですね。金貨十枚ほどしますが……いかがなさいますか?」


金貨十枚、日本円で一千万ほどする。上層の情報はそこまで高く無いが中層から値段が上がり始め、下層の値段はルーキーが知ればひっくり返るほど高い。

しかしそれにはしっかりと意味があった。


情報があれば対策を立てて挑めば大丈夫だ。

それは間違っていないのだが、本人達のレベルによってその対策が通じるかどうかは変わる。


ホーリーパレスは十階層ごとにその階層まで跳べる機能がある。

そこには移動するパーティーの中に一人でも辿り着いた者がいれば問題無い。


なので偶に依頼として、目的の階層まで連れて行って欲しいという内容のものがある。

確かな実力がある者がいれば問題は無いが、そうでない者が行ってしまうと……あっさりと殺されてしまうケースも珍しく無い。


そういう理由があってギルドは階層が下に行くほど情報を高く設定している。


「案外安いんですね。これでお願いします」


だが、金貨十枚ほどならゼルートにとって大した大金では無く、カウンターに金貨十一枚を置いた。

そのあっさりと金貨十一枚を出してしまうゼルートに受付嬢は、目の前の子供が自分の実力を勘違いしている貴族の子息だと思ってしまった。


(はぁ~~~……ダンジョン内で死なれてもこちらは責任取れないのに……本当にこういった人達は面倒なんですよね。三人ほどは確かに実力がありそうですが、この子も入れて他の二人は……正直解らないけど、おそらく死ぬでしょうね)


「それではギルドカードをお預かりいたしますね」


「分かりました」


ゼルートは躊躇ない無く受付嬢にギルドカードを渡した。

そしてそのギルドカードを受け取った瞬間……受付嬢は両目を大きく見開いて固まった。

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