少年期[514]買い取ることは出来るが……

「……やっぱり他人が戦ってるのを見るのも有りだな」


「そうね。それにレベルが高い人が戦うのであればなおさら、ね」


「確かに楽しいけど……ちょっとうるさいね」


闘技場へとやって来たゼルート達はリングで戦っている闘技者達を楽しく見ていた。

しかしゼルート達と同じく純粋に戦いを見て楽しんでいる者は少ない。


勿論ゼルート達も試合に金は賭けている。

だが、それでも試合を観て楽しむ気持ちの方が大きく、賭けに勝てば良いなという考えはそこまで大きく無い。


「オッズによっては戻ってくる金が多いんだ。そりゃ歓声も大きくなるだろ」


「歓声というか、怒声も混じってる気がするのだけど」


「それほど目先の戦いに夢中になってるってことだろ」


闘技場では一対一の対決、二対二の対決、人と捕獲して操っているモンスターとの対決などがあるが、そのどれもが盛り上がる。


一部の貴族が道楽として営んでいるクソの様な戦いでは無く、両者とも実力が近い者を選んでいる。

稀に闘技場に所属していない冒険者や騎士が参戦する事もあり、客としてはその戦いに飽きることが無い。


「客の中には殆ど実力が無い者もいるだろうし、そういった人達からすれば普段では考えられない程ボルテージが上がってしまうんだろうな、無意識のうちに」


「分かるような分からない様な……でも、見ててテンションが上がるってのは解かる」


「だろ。戦わせるメンツもしっかりと対等になるように考えられている」


接近戦が得意な者同士の戦い、遠距離同士が得意な者同士の戦い、その二人を組ませたタッグ戦。

基本的に中堅どころから一流と呼べる者達が戦っているので観客がつまらないと感じる試合は無い。


「……というか、なんであの人たちは闘技者をやってるんだろうな」


「それはどういう意味かしら?」


「だってあそこまでの実力があれば知識さえ身に着ければ冒険者にだってなれるだろ。もしくはワンチャン騎士になれる可能性だってある筈だ」


闘技者達の実力を考えれば確かにその可能性は大きい。

ただ、それは闘技者達の事情に問題があった。


「確かにゼルートの言わんとしてる事は解るわよ。でも、闘技者と言うのは借金をした人たちや元々奴隷だった人たちなのよ」


「つまり、自由に慣れる権利は無いって事か?」


「そういう事ね。でも、このカジノのランクを考えればここの闘技者達はそこまで不自由では無いんじゃないかしら。だって一応給料は出てるみたいだし、カジノ側がそろそろ利用価値が無いと判断したら解放されるのよ。その時に貯めていたお金は勿論貰える。まっ、闘技者の中には元犯罪者の者だっているの」


「マジでか!? それは……中々にヤバいのではないか?? その犯罪者に復讐心がある者からすれば、そんな奴がそこまで不自由なく生きているなんて考えただけでも気が狂うだろ」


その考えは正しく、犯罪者の犠牲者が情報を得てカジノに乗り込んで元犯罪者を殺そうとした事件もある。

闘技場では経営している人達の考えにもよるが、怪我をしても治癒の魔法使ってしっかりと食事を与える。

中には性欲を発散させるために娼婦を用意する場合もある。


それらを考えれば……犠牲者がカジノに乗り込んでまで元犯罪者を殺そうとするのも無理は無い。


「ゼルートの言う通りね。でも、カジノ側だって一応そういうケースには対応しようとしてるのよ。自分達が買った奴隷が今後自分達に利益をもたらしてくれるであろう額を計算し、それを被害者に提示する。もしその額を被害者が提示出来たのであれば奴隷としての所有権をその額と引き換えに渡すの」


「へぇ~~~、それはそれはちゃんとした措置が・・・・・・いやいや、それっとその元犯罪者が闘技者として終わるまで生み出す利益って事だよな」


「基本的にはそうね」


「それって、そいつの強さや見た目にもよるけど……いや、普通に考えれば無理じゃないか?」


元犯罪者を渡す平均的な値段は白金貨や黒曜金貨数枚では話にならない。

闘技者の待遇はその闘技者が試合でどれだけ観客を湧かすで変わる。


それ故に腕が鈍り、実力が下がれば当然観客からの人気は下がる。

その説明は闘技者となる前から説明を受け、大抵の闘技者達は暇な時間に自主トレを始めるようになり……結果的にレベルは上がらずとも技術の腕は上がっていく。


なので闘技者を辞めるまで……犯罪者の場合は一生開放されることは無いが、稼げる額が尋常ではない程多い。

ゼルートは小金持ちの域に達しているが、純粋な金の量だけでは闘技者を買うには足りないだろう。


「だから被害者が闘技者として買い取られた元犯罪者に復讐しようなんて無理な話なのよ」


「そりゃそうだろうなぁ……人の欲深さ、恐るべしってやつだ」


そう言いながらゼルートは闘技者同士の戦いに変わらず集中していた。

ラームも人の欲や事情にそこまで興味は無く、殆ど内容が耳に入っていなかった。

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