少年期[510]チップが宙を舞う

二人が攻防を行うこと三分、ゼルートがロウドの後ろを完全に取り、長剣の刃先を首筋に突き付ける事で模擬戦は終了した。


「ま、参りました」


「おう、中々良かったと思うぞ」


「そ、そうですか。有難うございます」


模擬戦が終わるとゼルートは周囲の遊び人に害が及ばない様に自分達を囲んでいた従業員にチップとして銀貨を一枚ずつ渡す。


すると二人の模擬戦を観ていた遊び人達から拍手が送られる。

タダで見られる試合としては中々に上等だったという事もあり、金を投げる人もいた。


それをアレナがそのまま地面に放置するのは良くないと考え、全てを回収する。


「ゼルート、たくさんのチップを貰ってしまったけど、どうする?」


「……遊び人達は皆太っ腹だな」


アレナがキャッチした金の中には金貨も混じっており、ロウドに素材を渡しても十分な利益が出るほどに。


「よし、ロウドだったな。合格だ。俺が少し前の対戦で手に入れた素材をやろう」


「有難うございます!!!」


「えっと、長剣の素材だから……これだな」


ロウドが扱う得物である長剣、そして風と火の魔法が扱えるという点を考えてBランクであるライオネルの牙と爪、そして戦いの最中にそこそこ威力の高い風と火の攻撃を繰り出してきた魔物の魔石を取り出す。


「取り出しておいてあれだが、今アイテムバッグは持っているか?」


「はい、勿論です。えっと……これらはどういったモンスターの素材や魔石なのでしょうか? ランクが高い魔物の物という事は解かりますが、商人程眼は優れていませんので」


「おっとそうだな。しっかりと説明しないといけないな。この牙と爪はライオネルってBランクの魔物の素材だ。それでこっちの二つの魔石は……レッドウルフのリーダーのやつと、こっちはスラッシュコンドルの魔石だ」


「ッ!!!!! え、えっと……ふぃ、フィーナ。僕達が持ってきたお金だけで足りるかい?」


「ろ、ロウド様。お……おそらく足りなかと思われます」


ゼルートが上げた魔物の名前を全てロウドは知っていた。

騎士になるためにいつか対峙するかもしれない魔物知識があるロウドは、その素材や魔石の価値もある程度解かっている。


従者であるフィーナもその素材と魔石の価値に慌て、どうすればいいのか頭を悩ます。


「あぁ~~……あれだ、別に用意して貰った資金で良いぞ。さっきの模擬戦で遊び人達が投げてくれたチップがあるからな」


「そ、そうですか……それは嬉しいのですが」


確かにかなりのチップが宙を飛んでいた。

そしてロウドもそれなりの金をアイテムバッグの中に入れている。


だが、それを足したとしてもゼルートが取り出した素材の価値に足りるか否か……ロウドとしては不安なところだが、ゼルートはその辺りを全く気にしていない。


「金の事は気にしなくて良いぞ、あの戦いではかなりの量の魔物を倒したからな。というか、ライオネルに関してはもう一体ぐらい倒してた気がするし」


「私もレッドウルフやスラッシュコンドルを倒した記憶があるわね」


「だ、そうだ。スペアがるようだし、気に知る必要はない。分かったな」


「分かりました。本当に有難うございます!!!」


ロウドと一緒に従者であるフィーナも深く頭を下げる。

最初はゼルートのロウドに対する態度や言葉遣いが気に入らないと不満を持っていたが、先程の模擬戦と価値の高い素材や魔石を躊躇う事無く渡すその度胸に感嘆していた。


「良いって事よ。しっかりと代金は貰ってるんだしな。おっと、そういえば一つだけ聞いておきたいな。なんで、強力な剣が欲しいんだ?」


「その、自分は騎士学校の学生なんです。夏には大会が開かれるので、その大会では良い成績を残したいのです」


「そっか・・・・・・なら、一つアドバイスだ。もう少し自分の体に流れる魔力の反応に敏感になった方が良い」


「魔力の流れに、ですか」


「そうだ。方法としては魔力による身体強化全身で行うのではなく一部のみ、そしてそれはゆっくり移動させる。自分がそれを出来れば、相手の魔力の流れもなんとなく解かる筈だ。まっ、だからといって油断が禁物だけどな。あと、素材の量には十分余裕があるんだし、そっちのお姉さんの分の武器を造ってやれよ」


魔剣を造るとしてレッドウルフのリーダーとスラッシュコンドルの魔石はロウドの長剣に使ってしまうとしても、ライオネルの牙や爪は魔剣一本分を造っても余裕がある。


ロウドはもう一度ゼルートに礼を言い、深く頭を下げてからカジノの外にフィーナと出ていった。


「出会たばかりの相手にアドバイスなんて、随分ご機嫌ね」


「……そうかもな。なんというか、目が真っすぐだったんだよ」


「目が、ねぇ……そう思ってしまう程に純粋だったの?」


「いいや、純粋って訳は無いだろ。貴族なんだからな。ただ、道具に振り回されるほど安い努力を積み重ねていない」


「なるほどね。あんたが気に入るタイプだったって訳ね」


「そういう事だな」

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