少年期[500]価値観は変わる

「さて、行くとしますか」


「そうね」


「何が楽しいのかまだ解からないが……そのうち解かるのだろう」


カジノ会場に入るのに相応しい服装に着替えたゼルート達は既に朝食を食べ終え、滞在している宿からゴージャルに存在する最大級のカジノへと向かう。


「ゼルート、本当にこういう服でなければならないのか? 少しヒラヒラし過ぎな気がするのだが」


「普通はこんなものよルウナ。別に男装で向かっても良かったけど、カジノでそんな面倒ごとなんてそうそう怒らないのだし、そこまで動きやすさを気にする必要はないわ」


「アレナの言う通りだ。それに、ルウナもアレナ……ラルも似合ってるぞ」


「有難うございます。私も母からカジノの話は少々お聞きしていたので、楽しみという思いはあります」


人の姿になっているラルもアレナやルウナと同様にドレスを着ている。

その姿はラルの容姿もあって貴族の令嬢に見えてもおかしく無い。


「オークションまで存分に楽しもう。というか、ゲイルはちょっとカッコ良くなり過ぎじゃないか?」


「そ、そうでしょうか? ゼルート様と同じタキシードを着ているのですが」


「ん~~~~……うん、やっぱりイケメンだな」


ゼルートの言葉は事実であり、元々人の姿では容姿が整っているゲイルがタキシードを着ることで普段とは違うオーラを放っている。


その証拠にすれ違う女性たちがゲイルにチラチラと視線を向け、コソコソと話し合っている。


「ゼルートのその姿を見るのは二回目だけど、やっぱり普段と違うというのもあって少し違和感があるわね。似合ってはいるのだけど」


「普段一緒にいるからこそ、そう思ってしまうのだろう。それに、ゼルートは元々貴族の子息な訳だし、タキシードに着られている感覚も無い」


「そう言ってくれると嬉しいよ。まぁ……こういった服装をしていたら馬鹿な事を考える連中は多いみたいだけどな」


カジノに向かう途中、歓楽街に入ったところからゼルート達に向けられる視線の数が一気に多くなり、その中には良からぬ事を考えている者も多い。


ただ、そういった人物が現れる度にゲイルが鋭い眼光を向けて牽制している。


『ゼルート達に手を出しても無駄なのに・・・・・・人間ってやっぱり馬鹿な奴が多いね』


『ここら辺にいる奴らは特に馬鹿な事を考えてる連中が多いんだろう。どうすれば楽して大金を稼げるのか考えてる奴らばかりだ。ある程度実力がありそうな奴だっているのに……もっとまじめに働けって話だ』


現在ラームは人の姿になっておらず、透過のスキルを使用して体を他者に見えない様にしながらゼルートにくっ付いている。


「やっぱり危険性があってそこまで大して稼げない仕事はしたくないって事か」


「裏では一つの仕事で大金が動くでしょうし、そういった考えを持つ奴らが多いのは事実ね。リスクに関しては……どうでしょうね? 冒険者として活動していれば当然の様に命の危険性はある。でも、裏の仕事なんてしていれば当然の様に恨みを買いまくるから碌な死に方はしないでしょう」


「だろうな。やってる事は裏の仕事してる人が法的には悪いんだが……まっ、その人の人生にもよるだろうな。価値観なんて人それぞれなんだし」


「人は生まれた場所や環境を選べないという感じか?」


「そういう感じ」


生まれた時から裏の人間に育てられれば何が正義で正しいのかという考えも変わる。

なのでゼルートは裏の人間が絶対悪とは言えなかった。


(だって貴族とかもそういう裏の人間を使ってる訳だし、完全に消えたら困る人も多いんだろうな。・・・・・・俺としては、俺と敵対する相手が絶対悪だからその辺りはあんまり気にする必要はないか)


ゼルートと敵対すれば、それは相手が冒険者だろうと貴族だろうと商人だろうと、裏の人間であろうと敵と認定する。


「ゼルート様、目的の場所が見えてきましたよ」


「みたいだな……うん、とりあえず眩しい」


ゴージャル最大のカジノを目にしてゼルートが放った第一声はそれだった。

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