少年期[466]囲まれたら、もう終わり

たかがゴブリン数匹の討伐。簡単な依頼だった。

何度も何度もこなしてきた依頼。それでも油断しない様に挑んだ。


目的のゴブリンには直ぐに出会えた。魔石も回収し、速く暖かいスープでも飲もうと仲間と話し合っていた。

そんな時に、自分達の直ぐ傍を何かが通る音がした。


耳がその音を拾った瞬間、仲間の一人の胸から血が飛びした。

三本の切傷が大きく、深くは無いが放っておいたら不味い事態になる。


だがその音は消えず、もう一人、またもう一人と仲間を襲う。

恐怖に陥ったその冒険者には自分の直ぐ傍を通り過ぎる音しか聞こえていなかった。


もう無理だ、終わった、どう足掻いても街まで戻れない。そもそも負傷した仲間を置いて逃げて良いのか?

駄目だ、頭の中が過去の記憶で覆いつくされる。


自分が殺される未来しか見えない。

冒険者がそう確信した瞬間、雪が一気に熔ける音が聞こえた。


「えっ!? なんで、ファイヤーランスが……」


「おい、これを仲間に使ってやれ」


「ッ!?」


突然横から聞こえた声に冒険者は驚き、その方向に顔を向ける。

見た目は完全に子供。カッコ良く自分に仲間達の傷を治せるかもしれないポーションを渡そうとしてくれているが、子供だ。


(なんで子供が!? えっ、もしかしてこのファイヤーランスを撃ったのってこの子なの!!??)


とても強そうには見えないが、貴族の子息ならファイヤーランスを使えてもおかしくは無い。

しかし子供の顔を見ると、どこか見覚えのある表情だった。


「ほれ、さっさとこれを仲間に使ってやれ。あと、仲間の傷を治したらその場から動くな。街まで送ってやるから」


「あっ、有難うございます!!!」


年下の子供に敬語を使ってしまった……なんてつまらないプライドは無く、寧ろその子供が来てくれたことで一気に安堵し、心が軽くなった。


子供の正体はつい少し前に話題になった冒険者だった。



「なぁ、さっきのファイヤーランスを避けたあいつヤバくない」


「正直ビックリだな」


「確かにゼルートのファイヤーランスを避けたのは凄い反応速度ね。それで、正体はやっぱりスノウタイガーだったのね」


Bランクに該当するスノウタイガー。速さや力は勿論脅威だが、それよりも周囲に雪がある状態のみ姿を消せる雪化粧という個体特有のスキルを最も警戒しなければならない。


「雪の特性持つ魔物だからこそ、ゼルート殿が生み出したファイヤーランスに直ぐ気付けたかと思われる」


「なるほどねぇ~~。火に対する反応は速いと……なら火を使わなければ良い話だ」


ゼルートから溢れ出す敵意と戦意。

それだけ溢れ出してしまったら攻撃するという意思がバレバレでは無いかと思われるが、それがバレるのはゼルートとして一向に構わない。


戦意と敵意を溢れ出させている理由は単純にスノウタイガーを逃がさない為だ。

それに威嚇しているのはゼルートだけではなく、全員。


いつの間にかスノウタイガーを囲むように陣取っていたアレナ達全員がスノウタイガーに向かって威嚇しながら良い笑みを浮かべている。


恐怖を与え、不気味に感じてしまう捕食者の目をしながら笑っている。

あのパーティー中で慎重なアレナでさえ、圧倒的に負けることが無いシチュエーションに珍しく目には自信しか無い。


考える余裕もなく囲まれてしまったスノウタイガー。

一先ず雪化粧を使い、姿を消そうとした。頭の中には先程自分目掛けて一直線に飛んできた炎槍はまぐれだと判断し、なんとかこの場から逃げ切ろうと身体強化と脚力強化を使用して逃走を試みる。


「どこに行こうとしてるのかしら」


アレナの雷を纏った超速の前蹴りが横っ腹にぶっ刺さる。


「ゴギャッ……!!!」


容赦無い一撃にスノウタイガーの骨はバキバキになるも、攻撃はそれだけで終わらない。


「お前も獣なら最後まで吼えろ」


気付いていた。気付けていた。そこに自分の天敵があると気付いていた。

しかしそれでもアレナの蹴りを食らったせいで吹き飛ばされるスピードにブレーキを掛けられず、ルウナの炎狼拳をモロに受けてしまう。


これでスノウタイガーの両側の骨は自然治癒では治らないレベルまで壊された。


今度は地面に叩きつけられたスノウタイガーだが、次は目の前に自分に炎槍を投げた子供よりも更に幼い少年が立っていた。

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