少年期[462]毒は良いよ

ルーキー達の指導は夜の六時まで続き、報酬を受け取ったゼルート達はその半分をルーキー達に渡した。


「今日はこれで飯でも食え、じゃあな」


ルーキー達が何かを言う前にゼルート達はその場から離れ、ベテラン達の行きつけの店へと向かった。

そして今日はベテラン達の奢りという事で三人は遠慮なく料理を頼む。


しかしそこでゼルートはゲイル達の分はこっそり自腹で払う。


「今日のルーキー達は中々に骨がありそうだったな」


「そうだな。腕力自慢の馬鹿と比べればな。ゼルートとしてはどう見る」


「ん~~~……まぁ、努力を怠らなかったら良いところまで行けるかもな。ただ、大成するまで生きているかは分らんが」


少なくとも今すぐ大成する程の実力は無い。

長い目で見れば冒険者として成功するだろうという見解。


ゼルートの回答にベテランの冒険者たちは自身の過去を思い出しながら頷く。


「そこだよなぁー。ゼルートみたいな実力のあるルーキーが早死にするケースだってある。そんな実力があるルーキーと比べて今日指導したルーキー達は……多少の差はあれど、良くてBまで行けるかもしれないって感じだからな。あいつらの運にもよるが、他の職業と比べて死ぬ確率は高い」


「私達だって、いつどこで死ぬかなんて分からないしね」


既にベテランの域に達している彼らは若いころの様に無茶な冒険をするような気力は無く、無理をしない冒険を乗り越えながら日々を過ごしている。


絶対に無茶な選択をしないベテラン達だが、敵対する魔物や盗賊がそんな事情を汲むわけが無く襲い掛かる。


「ゼルートはよく早死にしそうだとか言われないか?」


「早死にしそうだとは言われないけど、後ろから刺されそうだなとは結構言われている気がする」


「あぁ……お前って結構怖い物知らずだったんだな」


ゼルートの子供の頃に起こった一対三の件を知る冒険者は殆どいないが、ローガスとの戦いに関しては複数の冒険者が目撃しており、貴族が相手でも容赦しない冒険者として認識されている。


「盗賊もゼルートにとってはわざわざ自分から来てくれる金袋って聞くけど、それもマジか?」


「それはマジだな。盗賊っても所詮は奇襲が専門で数が多いだけのゴロツキの集まりだろ。そこまでレベルが高くて対人戦に特化してるような盗賊団じゃなきゃ特に苦は無いな。それに俺は接近戦でも速さ寄りだからな。しっかりとした武器さえ持ってれば大抵の奴は何も出来ない」


「速さ特化か……一理ある見方だな。そういった相手の方が多い時に気を付けている時とかあるのか?」


「……いや、特に無いな。ただ、俺が才能に恵まれていなかったらまずは通る場所で現れる盗賊団のおおよその人数と面倒な相手は覚えておく。あと、メインの武器を初っ端から使おうとしないと思う」


「? 命が掛かってる戦いな訳だから、使い慣れている武器で戦った方が良くないか?」


「相手が自分達と同等な相手ならな。でも格下相手なら舐めてかからないが、盗賊団の中でも名が知れている奴以外はサブの武器で倒しても良いと思う。後は……やっぱり武器に毒を塗って動けなくするのが良いんじゃないか」


自分を殺しに来る相手には容赦しないゼルートらしい意見。

だがこの回答にベテラン冒険者達やアレナとルウナは特に引くことなく真剣に考える。


「斥候メインの連中はそういうのが得意だったりするが……正直毒の調合とか知識が無い冒険者にとっては厳しく無いか?」


「それでもやってる斥候はいるんだろ。ならそういった連中に教えて貰う。もしくはポーションとか売ってる店の錬金術師に頼んでみたらどうだ? 薬と毒は表裏一体だ。売ってなくても造れる可能性はある筈だ」


ゼルート自身も毒薬を錬金術で造ったことは無いが、材料さえあれば造れる自信はある。


「そういった個人での取引は禁止されている訳じゃないかなぁ……ちょいちょい面倒ごとに発展する場合もあるけど」


遠い目をする冒険者を見てゼルートはどの様な面倒な事なのか気になった。

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