少年期[459]実戦で使えなければ意味無し
「珍しいわね。ゼルートがこんな依頼を受けるなんて」
「イルーネさんから受けてくれないかって頼まれたんだ」
「だが、ゼルートは面倒な思いをするだけじゃないのか?」
「その対処は既に考えているから大丈夫だ。まっ、良い暇つぶしにはなる筈だ」
ゼルートがイルーネから頼まれて受けた依頼は冒険者に成りたてのルーキーの戦闘関連の指導。
これ自体は珍しい依頼では無いのだが、ルウナの言う通りゼルートが受ければ必ずゼルートだけに面倒事が降りかかってくる。
それをアレナとルウナは心配している。
この街を拠点としている殆どの冒険者はゼルートの実力を把握している。
なので喧嘩を売るような真似は絶対にしない。何よりゼルートは基本的に敵対しなければ普通に接してくれるので、わざわざ溝を造るような行為をしようと考えない。
なによりグレイスがパーティーリーダーである魔導の戦斧と仲が良いため、Aランク冒険者の知り合いに手を出せばどうなるか……なんて事を考えてなるべく接触を避ける者もいる。
そしてゼルートが悪獣率いる魔物の大群を相手に大活躍したという話は既にドーウルスまで届いてる。
冒険者ではない一般市民までその話を知っているのだが、やはり相手の実力を正確に見抜くことが出来ず、更にゼルートが戦うところを一切見たことが無い者はその話を到底信じることが出来ない。
「ゼルートがそう言うのなら構わないけど。後輩を指導するのも先輩の務めだし」
「私にはあまりそういう感覚はわからんが……とりあえず面白そうだから受けるぞ」
「そうこなくっちゃな」
全員参加が決まり、指導日当日……動いてないと体が震えだす寒さの中で十人のルーキー達と指導者六名、それにプラスして三名が立っていた。
指導の時間の進行はCランク冒険者であるベテランの男が務める。
「とりあえず、お前達は戦うという行為に慣れる必要がある。ちょっと腕に覚えがあって冒険者に成る前に何十、何百、何千時間も訓練を積んだって奴ももしかしたらいるかもしれないが……俺らぐらい修羅場を潜り抜けた冒険者からすれば、それはなんの自慢にもならねぇーーから。それだけは覚えておけ」
ベテラン冒険者の言葉は間違っていない。間違ってはいないが、それでも今まで自分が積み重ねてきた努力を馬鹿にされたように感じたルーキーが複数名、男に向かって少々敵意が漏れてしまう。
「超スーパールーキーな先輩のゼルートからはこいつらに何か一言あるか?」
「その超スーパールーキーっての止めて貰って良いっすか。それで言いたいことねぇ……ま、この人の言ってることは間違ってないのは確かだな。訓練することは大事だが、それを実戦で……生と死が隣り合わせの実戦で発揮出来なければなんの意味も無い」
「そういうこった。流石一年も経たないうちに修羅場を潜り抜けまくってるルーキーは言う事が違うな!! てな訳でだ、ゼルートとルウナ。軽く模擬戦をお願いできるか」
「あぁ、任せといてくれ」
「うむ、ちょっとは体を動かさないとな」
ゼルートは予め指導が始まる前のミーティングで話し合いで自分とルウナに軽く模擬戦をさせて欲しいと頼んだ。
ゼルートが何故その様な事を頼んで来たのか。数秒ほど考えて直ぐに理由が解り、納得がいった表情になる。
そしてお前も苦労してるんだなという目を向けられながら「今度を飯を奢ってやるよと」ベテラン冒険者三人から伝えられたゼルート。
実力、金、女、十代ながら全てを持っていそうなゼルートに苦労してる部分があるのだと解ったベテラン冒険者達は、そこで、ゼルートが普通に真人間なんだと信じた。
「んじゃ、コインが地面に落ちたらスタートな」
男がコインを力強く弾き、小さく響く音が訓練場を支配し、綺麗な球に姿を魅せながら地面に落ちる。
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