少年期[458]勝負しながら懐について

「はぁーーーー・・・・・・やっぱり本当にぶっ飛んでるわね、ゼルートは」


「ラガスさんもそんなこと言いたげな顔してた。いや、もしかしたら言ってたか?」


領主の屋敷から宿に戻ったゼルートは既に日課の訓練は終えているので、部屋でアレナとのんびりリバーシで遊んでいた。


「私も本当にお金に余裕がある時は孤児院に寄付したことがあったけど、黒曜金貨二枚の寄付なんて聞いたことが無いわよ」


「俺のアレナより生きている年月は短いが、聞いたことが無いな。まっ、黒曜金貨二枚を寄付したところで俺らの懐が一気に寒くなる訳じゃないんだ。気にすんな気にすんな」


一般人が聞けば「何を言ってるんだこの阿呆馬鹿金銭感覚狂い野郎はッ!!!!」と確実に怒鳴り散らす。

一般人でなくても冒険者、商人、騎士に貴族、王族級の財力を持つならば話は別だが、ランクが低ければ怒り狂う。

そして暗いが高い者になればなるほど気が遠くなってしまう。


「そりゃパーティーのお金は大体ゼルートが稼いだお金なんだからあなたの決定に不満なんて無いわよ」


アレナが白のチップで黒のチップをひっくり返し、ゼルートがやや劣勢に。


「別に俺だけが稼いだって訳じゃないだろ。黒曜金貨に関しては……ありゃ完全に偶々だ」


この世で宝石という高級品に関しては最高で最強の価値を持つラッキーティア。

それを涙で生み出したラッキーティアスクワロに万分の一では効かない確率で遭遇することが出来、出会ったシチュエーションが良くて懐かれた。


(そういえばあいつに強くなったら一緒に冒険に連れて行ってやるって約束したよな・・・・・・珍しいってだけで、姿が知られていない訳じゃないんだ。もし一緒に冒険することになったら絶対の姿の変装にプラスしてステータスを誤魔化す魔道具も装備させないとな)


元から悪い事を考えている連中に狙われやすい材料を抱えているゼルートだが、ラッキーティアスクワロがパーティーに加われば更に狙われる理由が増える。


「偶然だとしても、それも実力の内って話よ。でも、パーティーの財布を握ってるのはゼルートなんだから一応は気を付けなさいよ」


「解ってるって」


基本的にパーティーで稼いだ金はパーティーの運用費と個人資産に分れる。

額としては当たり前だが、次のクエストの準備金などを考えればパーティーの運用費の方が圧倒的に高い。


しかし基本的に冒険者ギルドからの依頼を受けて稼ぐよりも、他の方法で稼ぎまくっているゼルート達。

その金は全てゼルートのアイテムバッグ中、もしくはアイテムリングの中に入っている。


そしてその中からゼルートは毎月アレナとルウナに小遣いを渡している。

額は冒険者や兵士に騎士が聞けば言葉が出なくなるか、気を失ってしまう程に高い。


なんだかんだで一年経たない内に決して温くは無い修羅場を潜り抜けてはきたが、今日まで二人はそこまで大した怪我を負っていない。傷を負っても瞬時に回復している。


二人の体験談を聞けばゾッとするものの、なんだかんだで冒険者生命を縮めるシチュエーションに遭遇していない。


「今度の目的はオークションなんでしょ。少しでもお金は多くあった方が良いと思うのだけど」


「盗賊団でも潰せば金は一気に手に入るだろ。俺達懐は潤って盗賊によって受けたかもしれない被害がゼロになる。まさに一石二鳥」


「まずその発想がそもそもおかしいから。Aランク冒険者でもそんな考えをしてる人は基本的にいないから」


「基本的には、だろ。中には俺みたいなちょっと常識外れな事を考える馬鹿もいるってわけだ。はい、これで終わり」


ゼルートが置いた黒の一手により、盤上にアレナの置けるマスは無く、黒が白を圧倒していた。


「……まいりました。とりあえずもう一回ね。それと、本当に大丈夫なの?」


ゼルートの資産なら買えないものはあまり無いだろうと思うアレナだが、やはり中にはちびってしまう程高額な商品も存在する。


だがゼルートの表情から笑みは全く消えない。


「オークションに行くからこそ、その辺りを心配する必要は無い」

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