少年期[456]学びたくても学べない

「はぁーーー。子供ってマジで元気だよな」


「まだあなたも年齢的には子供なのよ」


「中身は成人してるから子供じゃない」


冗談には聞こえないセリフを吐きながらゼルートが雪が降る中で元気よく遊びまわる子供達を眺める。


ゼルート達は現在孤児院からの依頼を受けており、子供達の遊び相手をしている。

本来こういった依頼はなりたての冒険者が受けるのだが、暇つぶしにとゼルートはゲイル達も連れて孤児院に向かった。


自己紹介の時には自分達とあまり年齢が変わらないゼルートが冒険者には見えず、馬鹿にするような声も上がった。

しかしそれはゼルートが子供達が目で追うことが出来ない動きを見せ、一瞬で尊敬の眼差しに変わる。


そこで孤児院の住む子供達の相手という事で、ゼルートは折角雪が積もっているのでかまくら作りと雪合戦を教える。


「アレナだってこんな寒いのにあそこまで元気に動こうとは思わないだろ」


「体を動かせば自然と暖かくなるものだけど、雪が降っているとどうしても寒さが抜けないでしょうね。それでも、ここの孤児院は他の街の孤児院と比べてまっしね」


「どの辺りがた?」


「第一に冬用の服や手袋にマフラーがしっかりと用意されていること。二つ目に子供達がそこまで腹を空かしていないことね」


庶民にとっては当たり前の内容であっても、孤児にとっては領主次第でその当たりの差が大きく違う。

大した食事も食べることが出来ず、孤児院を抜ける年齢になっても大した職に就くことが出来ずに死んでしまう子供が多い。


(ここもそこまで治安が良いって訳じゃないからな。チンピラがいれば乞食もいる。中にはヤクザ、ギャング? みたいなの奴もいる。俺らを見たらなんか丁寧にあいさつして去って行ったけど)


ゼルート達に手を出してはならない。これはこの街の裏で生きる者にとっては絶対的なルールとなっていた。

裏の世界で生きる者達は情報に敏感であり、それらの確認を行う事もある。

結果、ゼルート率いるパーティーに手を出せば死だけが待っていると裏の住民たちの間では伝わっている。


そして数日後にはゼルート達が孤児院の者達とも親しいという話が広がり、孤児院にちょっかいを出そうとする馬鹿は完全にいなくなった。


そんな自分達の影響力も知らず、ゼルートは変わらず元気に遊ぶ子供達を眺める。


「……学べないって事は、辛いよな」


「いきなりどうしたの? 言っている事は正しいけど」


「ちょっと昔を思い出してな」


ゼルートがまだ日本で学生として生活を送っていた時に、自分達がこうして勉強することは恵まれている。世界には勉強をしたくても出来ない子供達が大勢いるんだと先生に教えられた。


そこまで勉強が好きでは無く、寧ろちょっと嫌いだったゼルートは勉強しなくて済むなんてラッキーじゃん等と考えていた。


しかしそれが今、ようやく自分が恵まれていたという自覚を持つ。


(基礎を学ぶことが出来なければ、選択肢が狭まる。そもそもそういう道があるのだと知っていなければ道すら見えない)


それがどれだけ悲しいことなのか、才能と理解力に恵まれたゼルートには身に染みて解る。

もしそれらが無ければ自分は今どんな人生を送っていたのか。


神から貰ったスキルがあったとしても、今ほど人生を楽しむように生きる自信は無い。


「全てに手が届かなくても、目の前の存在に手を伸ばすことが出来る」


「へぇ……当たり前だけど、若い者ほど簡単には納得出来ない魔いようね。名言だと思うわ。自分で考えたの?」


「……いや、昔読んだ小説に乗っていた言葉だと思う」


(嘘です。ジャ〇プに連載していた漫画に登場したキャラクターがそんな感じのセリフを言っていた気がする)


この言葉を思い出し、ゼルートが持つ大金の内の一部の使い道が決定した。

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