少年期[454]ギルドからとはまた別に

高級レストランで夕食を食べた翌日、ゼルート達や他の冒険者達のリーダーは領主の家に呼ばれ、それぞれ報酬を受け取っていた。


受け取った報酬に差はあれど、どのパーティーも領主から貰った報酬に満足している。

ゼルートは他のグレイス達Aランクの冒険者と同じ白金貨三枚の報酬を受け取った後、ゼルートだけ特別にもう二枚白金貨を送られた。


それにギョッとした表情を浮かべるゼルート。

しかし他の冒険者達は当たり前だろうという表情をしており、使用人達も不満そうな表情は一つも浮かべていない。


速攻で理由を尋ねたゼルートだが、返ってきた答えは悪獣を倒したから。

それを聞いて直ぐに落ち着いた表情に戻り、冷静さを取り戻した。


(やっべーーーな。一気に白金貨が五枚も増えるって流石にヤバ過ぎないか?)


ゼルート達が今回の大乱戦で倒した魔物の魔石や素材を考えればそれ以上の価値があるのだが、そういった事をゼルートは一切考えていない。


そして報酬の受け渡しが終わった後にゼルートは領主から自分の専属の冒険者にならないかと誘われる。

騎士や私兵として日々を過ごすのではなく、日常は冒険者として活動しても構わない。

しかし領主からの指示があればその通りに動く。


腰の落しどころを探している冒険者ならば有難い勧誘かもしれない。

しかしそういった待遇には興味が無いゼルートは即座に頭を下げ、無礼の無い言葉を選んで謝罪する。


どういった答えが返ってくるか分かっていた領主は残念そうな表情を浮かべるが、特に機嫌を悪くする事無くその場を離れた。


(悪獣をまだ十二の冒険者とはいえ子供が討伐してしまうとは……もしかしたらと小さな希望に賭けて誘ってみたいが駄目だったか。だが、過去の話を聞いても十二の子供が悪獣を倒した話など聞いたことが無い)


突出した力持つ天才はどの時代に現れる。それは貴族や平民関係無しに。

だが、ゼルートほどの実力を持つ子供は過去を遡っても一人もいない。


(この先にも、あの子より実力持つ子供が現れることはない……あり得ないと断言しても良いだろう。今回の一件で彼は良くも悪くも世界に名が広がるだろう。本当なら早期にランクアップした方が彼の身だと思うのだが、それを決めるのは彼自身だ)


勿論ランクアップすれば早すぎる栄転に嫉妬して妬み、絡む輩も多くなる。

だが、ランクが低いからと噂を信じず、絡んでくる輩が多いのも事実。


(あの子がどういう気も無く進んでいたとしても、先に茨があるのは変わらないだろう。ただ……この先もしかして起こる問題に対して物凄く不安なのは私だけだろうか?)


悪獣を一人で倒した。この話自体、領主もまだ完全に信用出来ている訳では無い。

ただそれでも、他の高ランク冒険者達は全くその事を疑っていなかった。


そしてゼルートの仲間も全員が確かな実力を持つ者達ばかり。


(頼むから、頼むから揉め事だけは起こさないで欲しい)


貴族の中には貴族としての役目を全うしようと思わない馬鹿が呆れるほど多い。

今回の屑豚貴族が良い例だろう。


ただしこういった考えを持ってしまうのはこの街の領主だけではなく、ゼルートと出会った貴族全員が同じ考えを抱いた。


ゼルートの逆鱗に触れる者が現れるのはいつになるのか……それは神のみぞ解る事、かもしれない。



「ゼルート、これからどうするんだ?」


ドーウルスに戻ってきたゼルート達はいつもの宿屋でのんびりと体を休めている。


「これから寒くなるからなぁ……とりあえずは暖かくなるまでゆっくりとしようかと思ってる」


「珍しいわね。またどこか別に街に行って冒険するのかと思ってたけど」


「だって、寒い中外に出ての冒険はちょっと面倒だろう。目的があってそういう場所に行くなら話は別だけどさ」


ここでちょっと面倒という言葉が出るのがゼルートらしく、普段は好んで気温が下がる秋から冬に冒険にでる冒険者はいない。


だがゼルートの場合は寒さをカバーする魔道具を多く持っており、何より火の魔力操作で寒さから身を守ることが出来る。


「って事で、これからは体が鈍らない程度に動くけど、いつもよりのんびりと過ごす」


これから春先まではのんびりと過ごすと決めたゼルート。

本当にのんびりと過ごせるのだろうか?

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