少年期[441]それを卑怯だとは言わない

(こいつ、確かにデカい図体をしてる割には速い。それに、デカい体格に見合う力を持っている。でも・・・・・・技術がまるで無い)


ゼルートと出会って成長する中で勿論ラームは技術面の訓練も行っていた。

そしてルウナはどちらかといえば力と速さで押すタイプだが、ゼルートと出会ってから技術面は着実に成長している。


現に、ルウナとラームは今のところ傷らしい傷を負っていない。

逆にアシュラコングには小さな傷が増えていく。


「強いじゃないか、正直嘗めていた。そこは謝ろう」


「別に謝る必要無い。私達はお前を殺すんだ。これから殺す者からの謝罪など不要」


そんなものを聞いたところで何かが変わる訳では無い。

言われたところで目の前の魔物に何を感じる事も無い。


「それにお前が私達の戦力を見誤ったのは当然の事だ初めて会ったのだからな。人の言葉を話せる知能があるなら私の言葉の意味が解るだろう・・・・・・お前は世間知らずだから仕方のない事だ」


「それは確かにそうだな。ただ、それは挑発と受け取って良いのか」


両者至って通常時と変わりないトーンで話しているが、拳の連打が全く止まらない。

正拳が、手刀が、抜き手が何度も交差する。


「好きに捉えろ。だがもう一つ言っておこう。死んだ後に出し惜しみしなければよかったと後悔するなよ」


もう一段、ギアを上げる。

眼が完全に狩る状態に変わったルウナの速度は見て反応出来るものでは無くなった。


だがアシュラコングはダメージを受ける覚悟で右腕の三本を地面に叩き付け、足場を崩した。

そして後方に下がって準備を、と考えていたアシュラコングの作戦は実に甘い。


「言い忘れていたが、今の私達を前にして隙を作れるなどと思うなよ」


今のルウナは枷が外れていた。


ゼルートの様なスキルを使った限界突破では無く、獣人として、生物としての枷を外した。

勿論それは通常時の自身が使う事が出来ない部分に手を出しているということなので、リスクが無い訳では無い。


しかしルウナの体には今のところ以上は無い。


(今のルウナさんは完全に限界を超えた動きをしている。ルウナさんは軟な鍛え方はしてないだろうからまだ大丈夫だろうけど、どこかで限界来る筈。でも、僕が付いてるから多分心配は要らないね)


ルウナに武器として、防具として纏っているラームは直接ルウナの傷や内部損傷癒す事が出来る。


(流石に疲れまでは癒せないけど、ルウナさんなら限界が来るまでに終わらせてしまいそうだ。それにしても、アシュラコングも馬鹿な選択をしたね。いや、そもそもあそこから打開する選択肢が無かったのかもしれないけど)


乱打戦を行いながら何か別の事を行う。

本来ならアシュラコングは過去にゼルートが戦ったオークキングが使用した岩の鎧を纏うという手段を取るつもりだった。

もっとも、アシュラコングが纏う岩の鎧の質はオークキングが纏う岩の鎧とは訳が違う。


しかし自分以上との強敵と戦う機会が殆ど無かったアシュラコングには実戦以外で成長するという考えが無かった。

それ故に二つの事を同紙に行いという事が出来ない。


(まっ、そもそも距離を取ろうとしても僕が逃がさないんだけどね)


翼から放つ轟風、四本の腕から放たれる衝撃波に各属性の槍や球体。

それらが絶えずアシュラコングに襲い掛かる。

どれも無視出来る威力では無い。


そんな事をすれば直ぐに魔力が底を尽くのではと思う者もいるだろう。

しかし一時的に今のラームは倒した魔物から魔力を吸収したことで魔力の総合量が跳ね上がっている。


完全に追い詰められたアシュラコングの表情は完全に平静を保てていなかった。

敵の攻撃があまりにも速過ぎて攻撃を予測して避ける。もしくはガードする以外の選択肢が取れない。


(ふざ、けるな! いくら二対一とはいえ、この俺が!!!!)


二対一が卑怯だとは言わない。

野生の世界では日常茶飯事の出来事だ。


だが、それでも実力を認めたとはいえ自分が完全に押されているこの状況にアシュラコングは納得が出来ないでいた。


「そろそろ終わらせるぞ、筋肉モリモリゴリラ」


そんなアシュラコングが下らない事を考えている間にルウナはこの戦いを終わらせる準備を整えていた。

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