少年期[433]火は使っちゃダメ

「とりあえず、ゼルート君達を引き抜く行為は禁止って事で」


「異議無しだ。ただ、他の連中がどうするかは知らんがな」


「あの子達に手を出そうとしても、魔導の戦斧が許さないでしょ」


「そりゃそうだろうなぁー。ただ、あいつらならナンパして来た馬鹿共を瞬殺できそうだし、魔導の戦斧が出るまでも無いんじゃないかって俺は思うけどな」


獣人の冒険者の言葉に他の四人はウンウンと頷き、同意する。


「明日から直ぐに開戦なので、戦いの前に傷を負うという馬鹿な事は起こらなくて私としては嬉しいです」


「同意だ。そんな冒険者がいない、と断言は出来ないからな」


不満を愚痴り、大柄な冒険者はワインの入ったグラスを煽る。


「はっはっは!!! 明日は大戦だって言うのに、お前は変わらないな」


「ほんと、絶対に酔わず二日酔いにならないなんてズルい。そのスキル寄越しなさいよ」


「やらん。というか無理だろ。出来たとしても絶対にやらんが」


大柄な冒険者の血族は全員が酒好きであり、酔わず二日酔いにならないスキルを習得している。

完全な遺伝スキルと言えるだろう。


「でも、この大戦が終わった後にゼルート君達に迷惑を掛ける愚かな冒険者達が現れるかもしれないね」


「絶対にいるでしょうね。そんな冒険者達はどう致しますか? 常識のある冒険者なら誘いを断られれば引き下がるかもしれませんが、そうでない者達は迷惑を掛けてしまうかと」


「いいや、大戦が終わった後だからこそ・・・・・・そんな馬鹿阿呆共は現れない筈だ。多分な」


オークのステーキに齧り付きながら獣人の冒険者はエルフの冒険者の言葉を否定する。


「そう? 私は少なからず現れると思うけど」


「大戦が終わった後って事は、ゼルート達の戦いっぶりを見たってことだろ。あいつらの強さを見た後に強引に誘うなんて真似はいくらなんでもしないだろ。そんな事をする奴がいるなら、そいつはある意味勇者だ。蛮勇の方だけどな」


「一理あるな。完全にいないとは断言できないが、可能性は大きく下がるのは確かだろう。それに、先程も話していたが、今回は魔導の戦斧がいるんだ。馬鹿はぶっ飛ばされて終了だ」


「脳筋な考えですが、その光景が容易に想像出来ます」


エルフの冒険者だけでは無く、その他四人の冒険者も想像出来てしまい、吹き出してしまった。

その後はモンスターの大群について八割、愚痴が二割ほどの会話が続いた。


そして大戦当日、朝食を軽く食べてゼルート達はあらかじめ決めていた場所に向かう。


「今日はよろしく頼むぞ、ラーム」


『任せてよ!!! ルウナを援護しつつ、どんどん敵をぶっ飛ばすね!!!!!』


「ラームは相変わらず元気だな。暴れるのは全然構わないけど、火の魔法だけは使わないでくれよ?」


「ラームもその辺りは解っているので大丈夫かと思われます」


二人と二体はこれからの大戦に対して全く気負っている様子は無く、この戦いで自分達が死ぬ事は無いと完全に確信している。


「さて、とりあえず素材は気にせずぶっ飛ばして良いいから」


「ああ、遠慮なくぶっ飛ばさせて貰う」


『バンバン倒しちゃうよ!!!』


「任せてください。容赦無く、ぶった切ります」


ゲイルはいつも使っているゼルートお手製の長剣では無く、旅立つ前にラガールから貰った雷が付与されている長剣を取り出した。


ゼルートも武器はいつもと違い、フロストグレイブを手に持っている。


「ルウナは素手のままで良いのか?」


「問題無い!! どんな相手であろうと絶対に打ち勝ってみせる」


自分の全力をぶつけたい欲求が大きくなり、ルウナは獰猛な笑みを浮かべている。


子供が見たらおそらく逃げ出してしまうような表情だが、ゼルート達にはとても頼もしくみえる。


「おっ、開戦の合図だ」


上空に赤色の煙が上がり、今回の大戦に参加する冒険者達に存分に戦えという合図が送られた。


「そんじゃ・・・・・・派手にぶっ飛ばすぞッ!!!!!」


ゼルートの気合いと共に四人は全速力でモンスターの大群に突撃する。

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