少年期[425]自分の手で立ち直るしかない

「星を眺めながらの風呂はやっぱり最高だな」


「そうですね。本当に、綺麗な夜空だと思います」


前世では考えられない程の美しさにゼルートは数秒程の間、星が輝く夜空に見惚れていた。


「・・・・・・それで、あいつはどうしてるんですか?」


「ダンの事だな。あいつは今根元の部分を鍛え直している最中だ。ったく、お前という良いライバルが出来たと思ったんだがな」


「ダンの実力を考えれば、同年代に同程度の実力を持つ冒険者はいないでしょう」


「実際なところそうなんだよな。親の贔屓目無しでも、あいつは順調に成長していけば将来大成する。そりゃ大手のクランで大事に育てられているルーキーや、爵位の高い貴族の子息や令嬢に劣る場合もあるかもしれないが、実力はある」


だが、ドーウルスを拠点にしているグレイス達は依頼以外では王都やその他の都市に行く機会が少ない。

なのでダンには同年代で張り合える冒険者がいない。


「まっ、ゼルートにとってはあいつは今のところ大した事は無い様に思えるだろうが、あいつは刺激を受けた筈だ。自分より歳下の冒険者にここまでの傑物がいるんだってな」


「確かにゼルート様は傑物であろう。そんなゼルート様と歳が近い者が張り合うとすれば、当然焦りも生まれる。だが、そいつが焦るのは他にも理由がある、と私は思うのだがな」


「ふーーーーー、それは何となく解ってる。あいつの焦りの理由は俺らのせいって事もあるんだろう。それゼルートが間接的に影響してるんだがな」


「えっ、俺何か良くない事でもしてましたか?」


実力差が離れた歳下の冒険者をライバル視するあまりに生まれる焦り。

それ以外にも自分がダンが焦る原因の理由になっている。


その理由が直ぐに浮かばないゼルート。


「いやいやいや、ゼルートは何にも悪い事はしてねぇーーぞ。ただ俺らがある程度有名ってのがダンにとってプレッシャーになってるんだよ」


「あぁーー、なるほど。そこで俺がある程度強いってのが関係してるんですね」


「そういうこった。同じAランクの両親を持つのになんで俺はゼルートより弱いんだってダンの奴は思ってるんだよ。親のみとしては周囲に良いライバルがいるって気軽に考えて努力を続けていって欲しいだけと思ってるんだが、周りの他人の気持ちを全く考えない阿呆共がそうはさせてくれないんだろうな」


Aランク冒険者の両親の元に生まれた。ならば強いのは当然。

同年代の者に負ければその傷口を抉ろうとする阿呆が必ず現れる。自分の限界を勝手に決めて前に進む事は自分から諦めた阿呆共が。


(本人の事をかんがえずに勝手に騒ぐ阿呆か・・・・・・そういった存在を考えれば俺は確かに恵まれてるんだろうな。幼い頃か明確なトレーニングを続け、魔法や武器を操る才能にも恵まれている。ダンはグレイスさんの言う通り才能が無い訳では無く、同年代と比べれば頭一つか二つ抜けている。ただ、優秀な両親の元に生まれたからといって、その子供まで優秀かどうかはまた別の話なんやけどな)


ゼルートはそういった考えが昔から大っ嫌いであった。


(でも俺がダンに何かをアドバイスしようとしても、拒否られるのは目に見えている。だからあいつが立ち直るには、あいつ自身の力で立ち直る他ないだろう)


ダンが嫉妬心から自分に向ける感情や、自身が依頼を受けた冒険者だという事を忘れて勝手に突っ走るようなところは嫌いだが、ダンの立場には同情する。


(親が有名人だからって、良い人生を送れるかどうかは別の話ってわけだ)


ゼルートは心の中で自分を転生させてくれた神に感謝の念を送った。

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