少年期[422]帰って来て早々に
完全に王都での用が済んだゼルートは知人に挨拶を終えてから屋敷を出た。
使用人達はまた何時でも来てくださいと、少々涙目になっている者もいた。
ゼルートはそれを見てそこまで悲しまなくてもとギョッとしていたが、使用人達にとってゼルートは弟や息子の様な年齢に近く、使用人達に対して優しく接する態度から非常に気に入られていた。
そしてゼルートは執事長のワッシュに姉と兄に今後、この屋敷を使っても構わないと許可していると伝える。
「かしこまりました。一応ですが、クライレット様とレイリア様がお連れになったご友人などについて調べておいた方がよろしいですか?」
「あぁーーーー・・・・・・まっ、無いとは信じたいが一応調べておいてもらえると嬉しい。ただそれは兄さんと姉さんが王都にいる間だけでいいから」
そんな事はあって欲しくないと思うが、それでもゼルートに近づく為にクライレットやレイリアにすり寄る人物が現れる可能性はある。
(姉さんや兄さんを仲介して俺に依頼を申し込みたいとかだったら別に良いんだが、絶対にそうで無い奴らもいる筈だ)
クライレットやレイリアの人を見る眼を基本的には信じているが、それでもそういった事がほぼほぼ見抜けるような職業に就いている訳では無い二人にはどこか隙があるかもしれない。
なのでゼルートはワッシュにそういった情報取集に関しては一任した。
そしてこっそりと黒曜金貨を一枚ワッシュに渡した。
「ぜ、ぜぜぜゼルート様!!?? こ、これはいったいどういう」
「そういった情報を集めるのには色々とこれが必要だろ。信用出来るところで両替してくれ」
そういった者に頼った事が無いゼルートだが、それ相応の金が掛かるのだけは理解出来た。
ゼルートから渡された一枚の硬貨を握りしめ、ワッシュは何度も頭を下げる。
こうしてゼルート達は王都から去り、ドーウルスへと戻った。
一週間も掛からずドーウルスへと戻ったゼルートは王都でも代理決闘が終わってからかなりのんびりとした生活を送っていたが、ドーウルスに着いてからも数日はのんびり過ごそうと考えていた。
しかしゼルートがドーウルスで生活している時にいつも世話になっている宿へ一人のギルド職員がやって来た。
ゼルートとさのパーティーメンバーに用があるらしいので、ゼルートは自分の部屋に入れた。
「私はデリックと申します。今回はギルドからゼルートさんへの指名依頼として訪ねさせて貰いました」
「そ、そうなんですね。えっと・・・・・・モンスターが大量発生したとかそういった事件ですか?」
思い付く事件はモンスターの大量発生。もしくは大規模な盗賊団の討伐。
それら以外の事件以外はパッと浮かばない。
(ギルドの職員さんがわざわざ俺が泊まっている宿までやって来るってことはそれだけ事が大きい案件なのは確実だ)
一見冷静を装っているギルド職員のデリック。
しかしゼルートは何かに怯えているように思えた。
「その通りです。ドーウルスから少し前までゼルートさん達が活動していた王都までの距離と同じぐらいの位置にある都市から少し離れた場所にダンジョンがあったようです」
デリックの絶対では無いという意味を含んだ言葉にゼルートは疑問を感じた。
「そのダンジョンは、もしかして長い間見つかっていなかったダンジョン、ということですか」
「その可能性が一番高いかと」
ダンジョンは発見されれば当然の様に冒険者達が中に入ってモンスターを狩る。
発見されていないダンジョンであっても、中に存在するモンスター同士が殺し合う事でモンスターが溢れる事は無い。
(の筈なんだけど・・・・・・なんか偶々って気がしないんだよな)
ゼルートはこれが意図的に起こった現象だとは思わないが、それでも人の意志が絡まって起きたと推測する。
「その都市のギルドマスターから各都市で活動している高ランクの冒険者に指名依頼を飛ばしています。今回の一件には魔導の戦斧以外にも幾つかのパーティーに指名依頼が来ています」
「俺は高ランクとは言えない立場だが、おそらくギルドマスター辺りが推薦したってところか。あと領主様もか?」
「はい。しかし領主様に関しては無理に行く必要は無いと仰っていました」
ガレスはゼルート達ほどの戦力を向かわせなかったら後で他の貴族から何を言われるか分からない。しかし王都で仕事を終えて帰って来たゼルート達にいきなり仕事を頼むのも良くないと思っており、強制する様な事は考えていない。
しかし、もしオークキングやゴブリンキングの時以上の大規模の討伐依頼に参加してくれるのであれば、それ相応の報酬は出すとギルドマスターとも相談している。
(既に地上には多数のモンスターが溢れかえっている。にも関わらずまだ近隣の都市を襲っていないって事に疑問を感じるが・・・・・・とりあえず受けないという考えは無いな)
チラッと左右を確認すると、二人は良い笑顔で頷いていた。
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