少年期[407]獣人だから

大気を震わす様な激突音がヤジの声を一蹴する。


(おいおいおい、今のお互いの得物がぶつかり合っていなかったら致命傷もんだぞ。さっきまでそういった攻撃は避ける様な素振りを見せていたのに、熱くなりすぎて頭から完全に抜けたか?)


短剣から槍に得物を変えたフーラの攻撃は線から点に変わる。

手斧から大斧に得物を変えたディリアの攻撃は変わらず線での攻撃が続く。


ゼルートの目から見てディリアの動きにはまるで得物の重さを感じさせない動きをしている。


(元々力が強い虎人族だ。それに身体強化のスキルを使っている。あと大斧に付与されている効果で力が多少は上がっているか。いや、二つの手斧から大斧に姿を変えた事で効果が変わったりするのかもしれないな)


ディリアの攻撃の衝撃は先程までよりも重くなっていた。

力を上昇させる付与効果から変化し、大斧の重量を操作出来る能力に変わる。


重量はさほど変わる訳では無く、元々の重さに二倍程度までしか重くならない。

だがゼロからマックスの加速による衝撃の重さは馬鹿に出来るものでは無い。


徐々に、本当に徐々にだがフーラが後ろへ後退している。


「あの人、随分と使い慣れているわね」


「そりゃ命を任せる相棒なんだから使いこなすのに相当訓練を積んだんじゃないか?」


「でしょうね。でも、あれだけの速さで動きながら重さをゼロからマックスまで順序良く上げるのはかなりの技量が必要な筈よ」


「? ゼロから一気にマックスにしたら駄目なのか」


ゼルートとしては重さの加速にそこまで重要な内容があるとは全く知らなかった。


「動きの速さに関してはゼロからマックスへの差が重要になるけど、重さでそれをやる場合は限られているのよ。ゼルートは確かこれが使えたわよね」


手のひらを地面に押す仕草でこれが何を指しているのかゼルートは直ぐに察する。


「ああ、使えるぞ。というか常に自分に使っている」


「そういえばそうだったわね。それって相手に使う場合はどう使うの?」


「あんまり使った事が無いからそこまで知らんが、相手の範囲を限定して動きづらくするな」


「それって、一気にマックスまで上げれば奇襲になるでしょ」


「情報を持っていなければかなり良い奇襲になるだろうな・・・・・・あぁ、何となく解った。確かにその技術は凄いと思うけど、別にその方法じゃなくてもタイミングが合えばゼロからマックスでもいけそうじゃないか?」


重さに振り回されない為にブレが無いように段階を上げる。その技術は凄いとゼルートは認めるが、攻撃のインパクトの瞬間に重さをマックスにし、得物が相手の得物か殻だから離れた瞬間にゼロに戻せば問題無いのではと疑問に感じた。


「まだ二人共Cランクの冒険者なのでしょう。ならそこまでタイミングを見極める腕は無い筈よ。特にあれだけの速さで動いていればなおさら可能性は低い。極限まで集中力が高められている状態にならなければ今の彼女達じゃ無理ね」


「なるほどね。それならやり慣れている方法で戦った方がリスクが圧倒的に少ないって訳か。そんで、そろそろクライマックスの様だけど、どちらが勝つと思う」


「そうねぇ・・・・・・やっぱりディリアって冒険者かしら」


「私も同じだ。明確な理由は言えないが、獣人だからと言えば良いのか」


「何となく解らるような解らない理由だな」


「自分でもそう思っている。ただ、試合を見れば私の言っている事が何となく解る筈だ」


後ろに下がろうとも戦意が衰えないフーラ。

しかしその目からゼルートはフーラが何かを狙っている気付いた。


(あの連撃の状態を打破出来る技は・・・・・・あっ、もしかしなくてもあれか?)


この後フーラがどの様な行動を取るのか予測したゼルート。

その瞬間、フーラは賭けに出た。

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