少年期[386]戦いながら日常会話

「ところで、ゼルート。決闘の時はどうやって戦うんだ?」


「どうやってって、普通に戦うしかないだろ」


ゼルートの右回し蹴りをルウナは左腕で完全に受け止める。


「それでも戦えるだろうが、そういった勝ち方をすればそれはそれで目立つんじゃないか?」


受け止めた足を掴もうとするが、それよりも先にゼルートの左足がルウナの側頭部に迫る。

だがそれをルウナは上体を逸らして躱す。


「剣に火や風を纏ったり魔法を使ったりして少しは頑張って戦ってるアピールをすれば良いって事か?」


上体を逸らしながらもルウナは前進して抜き手を放つ。

攻撃が来る事が分っていたルウナは足に魔力を纏わせ、抜き手を受け止めてその衝撃で後方へ跳ぶ。


「そうすればゼルートが扱える魔法や技能の情報は洩れるかもしれないが、第三者からはDランクを相手にしてそこまで余裕を持てる者では無いって認識になるんじゃないかと私は思うんだが」


抜き手を利用して後方へ跳んだゼルートに向かってルウナは拳に魔力を纏い、それを砲丸にして殴り飛ばす。

魔砲の連撃に対し、ゼルートは初撃こそ気合いを入れて弾き飛ばそうとしたが、拳と魔砲が触れた瞬間にゼルートの方が押し負けた。


「なるほどな。それで俺が迫真の演技を出来れば上手く騙せるかもしれないな。ただ、俺がオークキングを一人で倒したって情報が王都にまで流れてるんだから、王都内で最強のDランク冒険者を剣と体術で倒したとしても不思議だとは思われないんじゃないか?」


放たれた魔砲が自身が漫画の技を真似してつくった連撃掌と同じ攻撃だと気が付き、ゼルートも拳に魔力を纏って周囲に攻撃が流れない様に魔砲を地面に叩き付ける。

そして魔砲が止むと同時にルウナはその場から駆け出す。


「かもしれないな。だが、その噂を信じている者はそう多くないだろう。それなら噂よりも弱いといった印象を与えた方が良いのではと」


ゼロからマックスへの変化が速くなったルウナの速度にゼルートは驚きながらも直線的な前蹴りをクロスした腕で受け止める。

そしてルウナが前足を離そうとする前に右腕を大きく振り、ルウナを吹き飛ばす。


「確かにそういった結果になる事もあり得るか。でも、決闘を見ている奴らが学生とはいえ、ある程度の腕がある奴は自然と気付くと思うんだよ。小さな違和感かもしれないけどな」


大きく態勢を崩したルウナに容赦なくワン、ツーをぶち込もうとするが、カウンター狙いで頭上から降りかかる足を受け止める。

完全に体が逆クの字になった態勢での蹴りにそこまで威力は無いが、それでも無視して喰らって良いものでは無い。

ゼルートの追撃を止めたルウナは上手く着地し、態勢を立て直した。


「なるほど、そこから自然とゼルート本来の強さが学生達の予測ではあるが、噂として広まっていくという事か。火竜の宴というクランに所属している男もゼルートの実力を解っていたようだったしな。いや、あれはゼルートが解らせたという方が正しいか」


ゼルートの方が一歩踏み出すのが早かったが、ルウナも態勢が整っているのでそこからはお互いの拳や蹴りを躱し続けるある意味膠着状態となっている。


「デーバックだったか。あいつは最初から何となくだが俺の実力の勘付いていたよ。完全に噂は信じていなかったようだけどな」


膠着状況を破ろうとしたタイミングは二人共同じであったが、素のスピードでルウナより少々勝るゼルートの足刀蹴りがルウナの顎の前で止まり、風圧がルウナの髪を大きく揺らす。

大してルウナのジャブはまだ伸びきっておらず、この時点で摸擬戦の決着が着いた。


「・・・・・・一歩及ばなかったか。けど、良い訓練が出来て良かった」


「俺はルウナの成長に驚かされたけどな。俺の連撃掌の遠距離攻撃版。いつの間に出来るようになってたんだよ」


「少し前から練習はしていたぞ。あれは接近戦で喰らうと初見ならば大体は虚を突く技だからな」


自身の成長を褒められたルウナ。

言葉のトーンこそ何時もと変わらないが、表情は満更でもなさそうな顔をしている。


「さて、次はアレナと私だな。十分後に開始で良いか?」


「そうね。それぐらい時間を空けてからの方が良さそうね。あっ、私との摸擬戦は木刀で行うから」


ゼルートを見習って接近戦の技術を上げようとはしているが、それでもまだルウナの相手になるかと言えば微妙なライン。

それはルウナも解っているので文句をいう事無く受け入れた。

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