少年期[380]勝てる訳が無い
「しっかりとした客室ね。出された紅茶まで上等なものだし」
「ゼルートの噂が教師達にも広まっているんじゃないか? ゼルートはかなりぶっ飛んでいるが、前例を生んだ姉と兄も中々ぶっ飛んでいるって認識になるだろう。なら教師達もゼルートの事を知らなくても中々ぶっ飛んだ事を起こした弟を適当に扱う訳にはいかないと思ったんじゃないか?」
「ふふ、それはありそうな考えね。学園の学校長ともなれば貴族界で怒ったそういった出来事などはある程度知ってるでしょう」
アレナの言葉にゼルートは好調を飲みながら心の中で可能性はあるだろうと思った。
(貴族の子息、息女が通う学校の学園長・・・・・・・腐った人物でなければある程度の権力は持っているだろうし、そういう情報定期的に仕入れてるだろうな)
飲み終えたカップをゼルートが置くと同時にドアがノックされ、一人の人物が入って来た。
「お待たせして済まないな」
教室の中に入って来た男性はゼルート達の対面に座る。
男性の容姿にゼルート達が驚くが、それを気にせず男は自身の事を話し始める。
「私はこの学校の学園長であるリーザル・デバッズだ。人間の学校の学園長がエルフなのが気になるかもしれないが、私の家系の祖先がどうやらエルフ族だったらしくてな。先祖返りというもので私は三十代半ばからこのような容姿となっている。ちなみに歳は六十だ」
人族の年齢から考えればあり得ない程若い容姿であり、何か魔法を使っているのではと疑ってしまう程の容姿だが、エルフという事なら納得の容姿であった。
「自分はDランク冒険者のゼルート・ゲインルートです」
「同じくのDランク冒険者のアレナと申します」
「右と同じくDランク冒険者のルウナだ、です」
無理矢理敬語を使おうとしたルウナにゼルートは小さく笑いそうになったが今はそういった事が許される場面では無いと思い、グッと堪えてポーカーフェイスを維持。
アレナも同様に笑うような場面では無いと解ってるので笑いを堪えて表情を現状維持する。
「君達は客人だ。私に敬語は不要だ。もしここの生徒と問題が起これば構わず私の名前を出してくれ」
「わ、分りました」
随分と物分かりが良い学園長であり、ゼルートが予想していた性格とは少し違った。
(もうちょい、控えめな性格というか・・・・・・・俺になるべく在校生と関わらない様にして問題を起こさないで欲しい、みたいな事を言われると思ってたんだけどな。俺の決闘後とで起きた問題を知っているから、それとも単純にこの人が真っ当な考えの持つ主なのか・・・・・・・前者もあるだろうが、後者の考えの方が大きそうだな)
まだ完全に信用できる訳では無いが、それでもゼルートはリーザルが悪意のある不正を働くようには思えなかった。
「今回この学校に来たのはレイリア・ゲインルートとセーコ・ルギーズの間で起こった問題の解決についてで合っているか?」
「はい。今回の事について一応兄も含めて話しておきたいなと思って」
「そうか。まぁ、結果は見えているかもしれないが、姉の危機ならば当たり前の事か」
リーザルの中では対戦相手にどのクランに所属するDランクの冒険者であろうとゼルートに勝つ可能性はゼロだと確信していた。
(爵位が上の子供を三人を相手に一人で勝つ事など基本的に不可能だ。神から送られたスキルがどれだけ強力であろうと使いこなすにはまだまだ時間が必要となる。だが、その結果を覆すだけの才能とセンスにはこの子にはあり、それらを使いこなす努力をしていたという事だろ。そしてまだ冒険者になって一年も経たない内にオークキングを単独で討伐。いくら才能とセンスがあったとしても勝つのは難しい相手・・・・・・・が、この子はそれを覆した。しかも話では傷らしい傷を負う事無く)
普通に考えればあり得ない。
神から送られたスキルが攻撃に特化した超有能なスキルであり、尚且つそのスキルを指導するのに適した人物が教え、毎日欠かさず訓練したとしても・・・・・・・届くかどうかは微妙なところ。
(それほどのスキルを持っていて養殖などを行えば弄る格好の的となる。なのでそれをやろうにも周囲が許さないといった方が適切か。それに子供もそれだけの力があれば自分の力だけで試したいという気持ちが沸き上がるものだ)
過去に課外授業で自身の力を過信して勝手に飛び出した生徒が大怪我を負った事を思い出し、一瞬だがリーザルは苦い顔をする。
(だが、この子は沸き上がった感情に流されず、冷静な頭で強敵を対処する事が出来るのだろう。その理由が日々魔物と戦い続けて来た結果・・・・・・・だとしてもそれは称えられこそすれど、非難される内容では無い。親御さんに心配をかける内容ではあるがな)
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