少年期[352]腐る程あった時間
生徒達との摸擬戦を始めたゼルートは長剣で生徒の攻撃を受け流して圧勝、手斧で生徒の武器ごと吹き飛ばし、槍を使って武器を絡め取って無防備なところを刺す。
大剣で攻撃を全て弾き、一切触れさせる事無く一撃で終わらせる。放ってきた魔法に対して拳を前に突きだして霧散し、放たれた魔法よりもワンランク下の魔法で決着。
ゼルートがランク通りでない実力を持っていると勘付いていた生徒達だが、あまりにも多才過ぎると感じた。
「ぜ、ゼルートさんは長剣か体術がメインじゃないんですか?」
「一応その二つがメインだな。魔法も使うけど・・・・・・やっぱりそっちの二つがメインか。まぁ、飛び道具とかも使うけど」
「えっと、その飛び道具の事も聞きたいんですけど、まずなんでそんなにメインの武器以外の武器をそんなにしっかりと扱う事が出来るんですか?」
サブの武器としてある程度扱える武器が他に一つある・・・・・・のような次元では無く完全に多くの武器を使いこなしているように生徒達からは見える。
(確かに短剣や大剣に槍とかのスキルは確かに持ってるけど、長剣や体術に比べれば低いしな)
ゼルートとしては二つのスキルと比べたら他の武器スキルはそこまで自慢できる物では無い。
「俺は・・・・・・一応貴族の息子なんだよ。つっても男爵家の次男だけどな。そんで家督は勿論長男の兄さんが継ぐから俺は色々と面倒な事を学ぶ必要は無いんだ。算術と文字は結構早い段階で覚えたから自由に使える時間は有り余ってた」
「そのお兄さんが万が一亡くなった時の為にスペアとして領の経営方法などを学ばされることは無かったんですか」
貴族の息女であり、上に兄弟を持つ生徒が至って当たり前な質問をする。
「俺もそこら辺は心配してたというか、本当に何もしなくて良いのかって思ってたけど両親が何も言わなかったんだよ。だからこうして今冒険者として生活を送れてる訳なんだけどな。んで、俺はその自由な時間を殆ど訓練にあててたんだよ」
「ほ、ほとんど、ですか?」
「文字通り殆どだ。それ以外にも多少やりたい事があったからそこに時間を割いていた事もあるが、殆ど朝起きて飯を食って、メイドに昼飯を貰ったら外に出て魔物と戦うか自主訓練するか従魔であるゲイル達と摸擬戦をするか・・・・・・大体そんな感じだったな」
「えっと・・・・・・つまらないと感じた事は無かったんですか?」
同じことを延々と繰り返す。その行動に一人の生徒がつまらなくはないのかとゼルートに質問する。
確かに前世と比べれば娯楽が圧倒的に少なくなったのでつまらないと感じる時が無い訳では無かった。
(けど創造のスキルでワンチャン、スマホやテレビを創れたりする・・・・・よな。でも電波と全くないからマジであっても意味が無い、筈)
もし時空を超えて電波がつながった場合それはそれで嬉しいとゼルートは思うが、それでもこの世界に来て前世ではあり得なかった物や体験が得られる事はまったくつまらないと感じる事は無い。
「自分が今一生懸命頑張って訓練してることが実戦で出来る様になったら普通に嬉しいだろ。そりゃ人がそれぞれ持つセンスや限界によって変わりはするけど、出来なかった事が出来るようになったら嬉しいってお前らだって思うだろ」
過去の感覚を思い出し、生徒全員が頷く。ついでに先生達やデック達までもが頷いていた。
「俺は・・・・・・まぁお前らが信じるか信じないかは別として、自分には剣術や体術より魔法の方が才能が有ると思っている」
「「「「「「「「!!!???」」」」」」」」
「別にそれを最初から知っていた訳じゃないし、理解していた訳でもない。だからお前達にもあると思うぞ。お前たちが解らず、挑戦していないだけで思いもよらない引き出しがある事にさ」
何か一つを極める事が悪いとは言わない、むしろ中途半端に多くの事に手を出して器用貧乏になるかもしれない。
ただ、その器用貧乏のお陰である場面で転機が訪れる可能性もゼロでは無い。
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