少年期[342]見ている先が違う

「本当に素晴らしい戦いだったよ」


「どうも。でもそんな生徒達の参考になるような内容でも無かったと思いますけど」


「そうでもないって。素手をメインで戦っている子以外は基本的に自身が使う武器以外を扱えるように頑張らないんだよ。勿論メインの武器の錬度が中途半端じゃ意味が無いから仕方ないと言えば仕方ないんだけどな。でも、俺達も冒険者になってから数年間の間に自分がメインに扱っている武器だけを頼りにしてたら万が一の時ヤバいって。なぁ、みんな?」


ボウドの言葉に他の職員達は過去を思い出し、苦笑いになりながらウンウンと頷いている。


「そこで素手は一番費用が掛からず鍛えられる武器だ。まっ、その分訓練中に体を怪我する事が他の武器と比べて多いかもしれないがな。ただ出来ないより出来た方が良いのは事実だ。戦ってる最中に武器が折れる壊れるなんて珍しい事じゃないからな。魔法をメインに戦う奴だって魔力が切れれば魔力を回復させるポーションを飲めばいいって考えは安直なんだよ」


「・・・・・・確かにそうですね。対峙しているのが魔物で数が一体ならば仲間に守って貰いながら飲む隙を作れば良いんですけど、乱戦の状況ではポーションを飲むのが難しい状況ではあるでしょうし」


「そういう事だ。ただ・・・・・・あいつらにそれを言っても中々理解してくれる奴が少なくてな。今年入って来た一年の中でそういった事が出来る生徒が四人ほどいたんだよ。しかもその内二人は女子生徒だ」


その四人がどんな人物なのかゼルートは直ぐに分った。


(十二歳でそんな事出来るのってあの四人ぐらいだろうな。俺が四人に伝えたのはそういう事が出来た方が良いぞって事だけで体術を学んだのは独学だろうけど)


だが、それでも学校の中だけで戦い方を学んでいる者達と比べればスレン達の引き出しは圧倒的に多い。


「そいつらをもう少し見習って欲しんだが・・・・・・あいつらはそいつらに見事にコテンパンにやられたからな。元のレベル差もあるんだろうが、何より経験値のさがあまりにも違う。あの四人が学校に入学する前にどのような生活を送っていたのかは知らんが、一人の少年のお陰とは言っていたな」


(・・・・・・・・・・・・その少年は多分俺の事です)


ボウドはその少年がゼルートなのでは思っているのだが、それは別に口に出す事ではないと思ったので言わなかった。


「今年入学したばかりの新入生に負けた事でそれまで学年でトップクラスだった奴らだからプライドだけはガキながらにあってな。自身の長所で負けたところにしか目が行ってないんだよ。まぁ・・・・・・四人の内の一人の態度がちょっと原因なところもあるんだけがな。なんて言えば良いんだろうな・・・・・・同じクラスメイトに接する態度は冷たいって訳じゃ無くいたって普通なんだよ。ただ随分と先を見ている目をしていて上級生の強さなんて興味無いって顔しててな」


ゴーランの先輩に対する態度を聞いたゼルートは仕方ないなと感じた。


(今のゴーランにスレン達との時間を楽しむって気持ちもあるだろうけど、それよりも強くなりたいって気持ちの方が大半を占めてるだろう俺は勿論ブラッソに父さんの実力を知っているゴーランにとってただの学生は上級生が相手だとしてもつまらない・・・・・・というか学ぶことが無いと思ってる筈だ)


事実、同級生や上級生ではゴーランの相手は務まらないので放課後の自主練などではスレンを相手に。スレンに予定がある時は学校の教員を捕まえて摸擬戦の相手をして貰っている。


「まぁ、何はともあれあいつらには良い経験になったんだ。本当に助かったぜ」


「礼を言うのはまだ早いですよボウドさん。これから自分達の仕事が始まるんですから」


「おっと、確かにそうだったな」


その日の夜、ゼルート達は教員である元冒険者の者達と交えて酒を控えめにして夜遅くまで飲んで食って語り合っていた。

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