少年期[341]力をただ振るうだけでは意味が無い
(・・・・・・こいつら、何をそんなにもしかしたらって顔をしてるんだ? 武器に属性魔力を纏わす。そういった魔法操作のセンスが無くてもスキルレベルを上げていけば一つの属性は武器に纏う事が可能だ)
スキルレベルを上げるのも個人の才能によって差異は出るが、それでも不可能な話では無い。
(てか、ちょっと前に摸擬戦をしたあの・・・・・・ランクアップの昇格試験を一緒に受けて結局落ちたあの男はおそらく剣術スキルからその技能を手に入れた訳では無い。それに、俺の友人はもっと幼い時にそれが出来るようになっていた)
あまりにも・・・・・・ショボイ。
その技能に、何をそこまで期待しているのか理解出来ない。
そこから応用が出来るのか? ゼルートには全くそんな風には見えない。
リーダー格の少年は長剣に風の魔力を纏わせるだけで満足そうな顔をしている。
その次に何か自分が予想していない事が飛び出してくるとは思えない。
「・・・・・・はぁーーーー。もっと、もっと、もっと考えて戦えよ。知恵を絞れよ」
一言、そう呟くとゼルートは自分から距離を縮めた。
その速度に少年は全く目で追えていない。
振りかぶろうとしている風の魔力を纏った長剣の柄を持ち、緩急をつけて無理矢理引っこ抜く。
そしてジャブ、ストレート、右フック、左フック、ボディ、アッパー。
八発のパンチをゼルートは男の子に叩き込んだ。
勿論手加減はしているし、男の子も身体強化のスキルを使っているので素の防御力は上がっている。
ただゼルートも手加減のギリギリのラインを攻めたので男の子は最後のアッパーで空中を二回転程してから地面に落ちた。
そして男の子が落ちたタイミングで引っこ抜いた長剣を持って我前に刃先を突きつける。
「ほい、チェックメイトだ」
「ッ!!?? ・・・・・・まい、りました」
男の子はゼルートに刃先を付けられ、何故そのような状況になったのか解らず目をパチパチとさせていたが、体に残る鈍痛からどのような攻撃を自分が受けたのか理解した。
戦いが終わったゼルートは生徒達の方に目を向ける。
冷めた目・・・・・・自分達を挑発してた時の目とはまるで違う目。
お前らと俺は種族が云々ではなく、根本から違う。
そう思い知らされる目を向けられた生徒達は体を震わせる。
「さて、見て分ったと思うけどお前らが俺に勝てるかと思っていたリーダー的なこいつでも俺の遊び相手にすらならない。実力差をよぉく解ってくれたと思う」
ゼルートの言葉に生徒達は頷く事しかできなかった。
自分より三つも年下だとか、自分の方が体格が良いのに等、そんな下らない感情は出てこない。
「お前たちが学んでいる学校はそこそこ良い学校だろう。それでお前たちはそこの三年生、最終学年だ。冒険者になったばかりのルーキーよりは強いと思ってしまうのも仕方ないだろう」
人との、魔物との戦い方を学んでいる人間とそうでない人間。どちらが強いなど明白だろう。
「でも、お前らが学校でぬくぬくと大して危険に晒される事も無く学んでいる三年間と今日のその日を、明日を生きる、仲間を守る、生死を賭ける一瞬を超える為に生き続けて来た三年間の経験値や密度に重さが同じ同じはずないだろ。お目達はの強さは冒険者全体から見ればそこら辺に転がっている土にまみれた石ころと変わらない」
相手を侮辱するのに十分意味を持つ言葉。
それを受けた生徒達は顔を熱くさせる。
だがそれも一瞬。直ぐに今さっき現実を見せられたばかりなのを思い出し、俯いてしまう。
「訓練だけで高みに登れる、そんなのは本当の天才だけだ。お前らが何を思って考えて冒険者になろうとしてるなんか知らん。けどなぁ・・・・・・ランクA、Sになろうなんて夢見がちな考えを持ってるんだったら直ぐに捨てた方が良いぞ。才能が秀才止まりの奴がそこまで行くなら、考えに考え抜いて行動して阿呆みたいな努力を積み重ねなかったらなれる場所じゃない」
本気の自分の父親やグレイスに勝てるか?
魔装を使えば絶対に勝てる自信がゼルートにはある。
だがそれを使わない場合、ゼルート自身も本気で戦ったところで圧勝できるかと訊かれれば否と答える。
生まれた時から自分を鍛え続け、神から貰った才能を駆使しても勝てはすれど圧勝は難しいと考える。
(決して・・・・・・決して選択肢が多い事は良い事って訳じゃないからな)
このまま行けばいつかはそういった相手と戦う事があるかもしれない。
目の前の生徒達だって何かの偶然が重なってそんな状態に遭遇かもしれない。
「だから・・・・・・今のお前達に何が出来るのか、何を磨けば自分の確かな武器になるのかを考えろ。考えて考えて考え抜け、思考を重ねろ。いつか・・・・・・いつかお前たちが自分の選択で後悔しない為にだ。それがガキの頃からずっと戦い続けて来た俺からのアドバイスだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます