少年期[332]過去の自分を褒めたい

ゼルートがアイテムバッグの中から取り出した今回のメイン肉はオークキングの肉だった。


取り出された肉の種類を教えて貰ったデックとソンは今まで上がっていたテンションが一気にリセットされ、通常時に戻った。


「ちょ、ちょっと待てゼルート、流石にその肉は・・・・・・なぁ、ソン」


「あ、ああ。その肉は流石に金を払わずに食べようという気にはならない」


勿論二人の心の中にはオークキングの肉を食べてみたいという気持ちはある。

だが、いくら次の機会にゼルートへ飯を奢ると約束していても、自分達の稼ぎでは絶対と言っていいほど食べる事が出来ないオークキングの肉を食べる気にはならなかった。


「別にそんな気にしなくてもいいぞ。こいつ結構大きかったから肉もそこそこ多いんだよ。それにそんなしょっちゅう食べる物じゃないから減るのも遅いし」


ゼルートは二人の逃げ道がなくなる様にオークキングの肉を焼き始める。

焼き始めると今まで焼いてきた肉の中で一番食欲を刺そう香りが二人の鼻を刺激する。


少量とはいえ、そこそこ多くの肉を食べて来たデックとソンの腹はあと少し食べれなお腹いっぱいといった状態だった。

しかし漂って来る香が食欲を猛刺激したため、長めの腹音が鳴ってしまった。


「ほい、焼きあがりましたよ」


ゼルートから差し出されたオークキングの焼肉を二人は反射的に受け取ってしまう。

そして只でここまで上等な肉を食べるのはゼルートに悪いと思っていた罪悪感が吹き飛び、デックとソンは思いっきり焼肉に齧り付いた。


今まで食べて来た肉との格差が明らかに解る味に二人は感動した。

そして直ぐには飲み込まずに何度も肉を噛み続ける。


最後にオークキングの焼肉を飲み込んだ二人は声を揃えて美味いと唸った。


それから約二十分間、会話をしながらも二人はこの先食べる事が無いかもしれない肉を噛みしめながらゼルートに感謝していた。


「・・・・・・うん、マジで美味かった。いやぁーーーー、あれだな。なんて言葉にして良いのか解らん美味さだった」


「それには物凄く同意出来る。俺達のランクでの稼ぎじゃ絶対に倒す事は勿論、食べる事も出来ないからな」


二人は最近ギルド内で現れた実力がランク不相応な実力を持ったルーキーに対し、嫉妬の感情は無かった訳では無い。

だが、そういう奴いても可笑しくは無いと割り切っていた。


同業所からルーキーが活躍した話を聞き、そいつと話してみたい。出来れば友人という立場に成れれば良いなという願望はあった。

勿論その気持ちの中には打算が無かったいえば嘘になるが、オークキングを単身で倒したルーキーに対する興味が殆ど。


そして運良く友達とはいかずとも知り合いになる事が出来、一緒に依頼を受ける事が確定した。


今回ゼルートを誘ったのは受ける依頼についての話などを含め、お互いの事を知れたらと二人は考えていた・・・・・・筈だった。

現にその目的自体は達成していた。


だが二人は今そんな事よりも、今日ゼルートを誘った自分達自身に感謝している。


「・・・・・・ゼルート、今度一緒に娼館へ行こうぜ! 良い店知ってるからよ。勿論俺が奢るぜ!!」


「うむ、自分の今度美味い穴場の店を紹介しよう。デックと同じく自分の奢りだ」


二人からの誘いにゼルートは素直に嬉しく感じた。

リルやスレン達とはまた違った友人。


そんな存在が出来た事が嬉しくてたまらない。


ただ、ソンからの誘いには絶対に行こうと思った。

しかしソンからの誘いはやはり男としては嬉しい。自身の息子がピクリと反応してしまった。

だがその時に大人への一歩が踏み出せる自信があるかはゼルートすら分らない。

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